こんにちは、すずきです!
令和初のブログということで、新天皇の言葉をとりあげてみます。
皇位を継承した新天皇はさまざまな儀式を行うのですが、即位後初めて国民を代表する人々と会う「即位後朝見の儀」という儀式があります。
新天皇が初めてメッセージを出すことから、その内容は非常に注目されています。もちろん思いつきで話すわけではないので、細かい言葉の使い方からさまざまな意図がうかがえたりするのです。
せっかくの機会なので、30年前の平成版と、今回の令和版の内容の違いについて、細かく調べてみました。
まずは平成版(平成元年ー1989年1月9日)と令和版(令和元年ー2019年5月1日)の全文を紹介。文字数は平成版が355文字、令和版が375文字とほぼ同じです。
■平成版(平成元年ー1989年1月9日)
大行天皇の崩御は,誠に哀痛の極みでありますが,日本国憲法及び皇室典範の定めるところにより,ここに,皇位を継承しました。
深い悲しみのうちにあって,身に負った大任を思い,心自ら粛然たるを覚えます。
顧みれば,大行天皇には,御在位60有余年,ひたすら世界の平和と国民の幸福を祈念され,激動の時代にあって,常に国民とともに幾多の苦難を乗り越えられ,今日,我が国は国民生活の安定と繁栄を実現し,平和国家として国際社会に名誉ある地位を占めるに至りました。
ここに,皇位を継承するに当たり,大行天皇の御遺徳に深く思いをいたし,いかなるときも国民とともにあることを念願された御心を心としつつ,皆さんとともに日本国憲法を守り,これに従って責務を果たすことを誓い,国運の一層の進展と世界の平和,人類福祉の増進を切に希望してやみません。
■令和版(令和元年ー2019年5月1日)
日本国憲法及び皇室典範特例法の定めるところにより,ここに皇位を継承しました。
この身に負った重責を思うと粛然たる思いがします。
顧みれば,上皇陛下には御即位より,三十年以上の長きにわたり,世界の平和と国民の幸せを願われ,いかなる時も国民と苦楽を共にされながら,その強い御心を御自身のお姿でお示しになりつつ,一つ一つのお務めに真摯に取り組んでこられました。上皇陛下がお示しになった象徴としてのお姿に心からの敬意と感謝を申し上げます。
ここに,皇位を継承するに当たり,上皇陛下のこれまでの歩みに深く思いを致し,また,歴代の天皇のなさりようを心にとどめ,自己の研鑽に励むとともに,常に国民を思い,国民に寄り添いながら,憲法にのっとり,日本国及び日本国民統合の象徴としての責務を果たすことを誓い,国民の幸せと国の一層の発展,そして世界の平和を切に希望します。
■段落ごとに比較
ともに4段落で、それぞれの段落の大意もほぼ同じなので、段落ごとに内容を比較していきましょう。分かりやすくなるよう、令和版を太字、大きな変更点を赤字にして引用しました。
一段落目は皇位を継承した事実を述べるもので、ほぼ同じ内容。
ただし、平成版は昭和天皇崩御を受けての皇位継承なので、「悲痛の極み」といった言葉が入っています。また、令和版は前天皇の退位にあたり、「天皇の退位等に関する皇室典範特例法」という法律が作られたので、「特例法」となっています。
(平成)大行天皇の崩御は,誠に哀痛の極みでありますが,日本国憲法及び皇室典範の定めるところにより,ここに,皇位を継承しました。
(令和)日本国憲法及び皇室典範特例法の定めるところにより,ここに皇位を継承しました。
二段落目は皇位を継承しての率直な感想。
平成版は一段落目と同じく、「深い悲しみ」との昭和天皇崩御を受けた言葉があります。また、平成版の「心自ら」のような古めかしい言葉を、令和版では現代風にして分かりやすくしていますね。
(平成)深い悲しみのうちにあって,身に負った大任を思い,心自ら粛然たるを覚えます。
(令和)この身に負った重責を思うと粛然たる思いがします。
三段落目では前天皇の業績を振り返ります。前天皇の生きた時代や個性の違いから、ここは大きく異なっていますね。
平成版の「激動の時代」「幾多の苦難」といった表現は太平洋戦争の敗戦を受けての言葉でしょうし、令和版の「強い御心を御自身のお姿でお示しになりつつ,一つ一つのお務めに真摯に取り組んでこられました」は災害時の慰問などを指しているのでしょう。
バブル絶頂期だった平成版の「安定と繁栄を実現」との言葉が、令和版にはないのはやはり平成期の経済の停滞が影響しているのかも。その代わり、「象徴としてのお姿」という言葉をハイライトしています。
(平成)顧みれば,大行天皇には,御在位60有余年,ひたすら世界の平和と国民の幸福を祈念され,激動の時代にあって,常に国民とともに幾多の苦難を乗り越えられ,今日,我が国は国民生活の安定と繁栄を実現し,平和国家として国際社会に名誉ある地位を占めるに至りました。
(令和)顧みれば,上皇陛下には御即位より,三十年以上の長きにわたり,世界の平和と国民の幸せを願われ,いかなる時も国民と苦楽を共にされながら,その強い御心を御自身のお姿でお示しになりつつ,一つ一つのお務めに真摯に取り組んでこられました。上皇陛下がお示しになった象徴としてのお姿に心からの敬意と感謝を申し上げます。
最後の四段落目は皇位を継承しての抱負。
平成版は意識する対象として前天皇(大行天皇)を挙げただけなのですが、令和版は「歴代の天皇」も入れていることが気になります。
平成版は戦後、天皇の役割が変化したことを受けての言葉で、令和版では役割が変化する前の天皇のあり方も大事だよと強調する意味があるのでしょうか。歴代天皇を参考にするのは当たり前ではあるので、平成版の抜けをカバーしただけかもしれないですが。
大事なのは平成版では「責務を果たす」とふわっとした言葉だったのが、令和版は日本国憲法第1条に規定されている通りの「日本国及び日本国民統合の象徴としての責務を果たす」と明確に言及していることですかね。
(平成)ここに,皇位を継承するに当たり,大行天皇の御遺徳に深く思いをいたし,いかなるときも国民とともにあることを念願された御心を心としつつ,皆さんとともに日本国憲法を守り,これに従って責務を果たすことを誓い,国運の一層の進展と世界の平和,人類福祉の増進を切に希望してやみません。
(令和)ここに,皇位を継承するに当たり,上皇陛下のこれまでの歩みに深く思いを致し,また,歴代の天皇のなさりようを心にとどめ,自己の研鑽に励むとともに,常に国民を思い,国民に寄り添いながら,憲法にのっとり,日本国及び日本国民統合の象徴としての責務を果たすことを誓い,国民の幸せと国の一層の発展,そして世界の平和を切に希望します。
こうして比較すると、同じことを話しているようにみえる儀式の言葉も、結構違いが見えてくるのが面白いところ。
ちなみに令和版は公式の英語訳も出ているのですが、三段落目が日本語は2文なのに対し英語は3文、四段落目が日本語は1文なのに対し英語は3文と、区切り方を変えています。言語の特性もあるかもしれないですが、この辺も調べてみると面白いかもしれません。
(追記)即位後朝見の儀の天皇陛下のおことば、大正版と昭和版も比較
即位後朝見の儀の天皇陛下のおことばは平成版以前のものも探したのですが、ネット上には見当たらなかったので、国会図書館に行ったところ、朝日新聞縮刷版に大正版と昭和版が載っていました。
その内容で改めて検索するとネット上にも見つかったので、内容と現代語訳、リンクを掲載します。日本語訳は僕の手によるものなので、参考程度にみていただければ。間違っている可能性も高いので、気になるところがあればご指摘ください。
文字数は大正版が293文字、昭和版が661文字。文章構成を見ると、大正版は「皇位を継承した事実→前天皇の業績→皇位を継承しての抱負」で、平成版や令和版とほぼ同じ。
一方、昭和版はかなり異色。分量がかなり多いだけでなく、構成も異なっているほか、国内の対立にかなり心を痛めている様子がうかがえます。前年の1925年に普通選挙法が成立、政治活動が活発化していたことも影響しているかもしれません。
■大正版(大正元年ー1912年7月31日)
朕俄かに大喪に遭ひ哀痛極り罔し但た皇位一日も曠くすへからす国政須曳も廃すへからさるを以て朕は茲に践祚の式を行へり
(私は突然、前天皇の逝去に直面し、心から悲しみ嘆いています。ただ、皇位は一日たりとも空けるべきでなく、国政も少しの間もやめてはいけないので、私はここで践祚(天皇の地位を受け継ぐ)の式を行いました)
顧ふに先帝叡明の資を以て維新の運に膺り万機の政を親らし内治を振刷し外交を伸張し大憲を制して祖訓を昭にし典礼を頒て蒼生を撫す文教茲に敷き武備爰に整ひ庶績咸熙り国威維揚る其の盛徳鴻業万民具に仰き列邦共に視る是に前古未た曾て有らさる所なり
(振り返ると、前天皇は賢くて物事に通じており、明治維新に際しては、政治上の多くの大切な事柄を取りさばき、国内政治の古いものや無駄なものを取り除き、外国との交渉を拡大し、憲法を制定し、先祖の遺訓を明らかにし、儀式を行い、人民をいたわり、教育制度を整え、軍備を整え、それらを推し進めたことで、国家の威光が盛んになり、その立派な徳や大事業を多くの人民が敬い、諸外国も同様にみています。これはいまだかつてないことです)
朕今万世一系の帝位を践み統治の大権を継承す祖宗の宏謨に遵ひ憲法の條章に由り之か行使を愆ること無く以て先帝の遺業を失墜せさらんことを期す有司須らく先帝に盡したる所を以て朕に事へ臣民亦和哀協同して忠誠を致すへし爾等克く朕か意を體し朕か事を奨順せよ
(私は今、万世一系の天皇の地位に就き、統治権を継承しました。歴代天皇の広大な計画に従い、憲法の文章にのっとり、権威行使を誤ることなく、前天皇の成し遂げた遺業が失われないようにしたい。すべての役人は前天皇に尽くしたように、私に仕え、国民と力を合わせて忠義を尽くしなさい。あなたたちは私の意図を守るようにして、事業を助けてほしい)
■昭和版(昭和元年ー1926年12月28日)
朕皇祖皇宗の威霊に頼り万世一系の皇位を継承し帝国統治の大権を総攬し以て践祚の式を行へり旧章に率由し先徳を聿修し祖宗の遺緒を墜す無からんことを幾庶ふ
(私は歴代天皇の神霊により、万世一系の天皇の地位を継承し、大日本帝国の統治権を掌握し、践祚の式を行った。古くからのおきてから外れないようにし、先人の美徳を修めて人民を安んじ、歴代天皇の遺業をおとしめないようにしたいと願っている)
惟ふに皇祖考叡聖文武の資を以て天業を恢弘し内文教を敷き外武功を耀かし千載不磨の憲章を頒ち万邦無比の国体を鞏くせり皇考夙に心を養正に宅き廼ち志を継明に尚くする不幸中道にして聖体の不予なる朕儲弐を以て大政を摂す遽に登遐に遭ひて哀痛極り罔し但皇位は一日も之を曠くすへからす万機は一日も之を廃すへからす哀を銜み痛を懐き以て大統を嗣けり朕の寡薄なる唯兢業として負荷の重きに任へさらむことを之れ憚る
(考えるに、歴代天皇はかしこく、徳が高く、文武の才能を用いて、国を治めてきて、国内では文化教育政策を整え、国外では軍功を挙げ、千年後まで消えない憲法を公布し、世界中どこを見渡しても類のない国家を築き上げてきた。前天皇は幼いころから体が弱く、不幸にも道半ばで病気となり、私が皇太子として代わりに政務を行ってきたが、急に崩御されて、心から悲しみ嘆いています。ただ、皇位は一日たりとも空けるべきでなく、政治上の課題は一日たりともおろそかにされるべきではない。悲しく心は痛むものの、皇位の系統にある私が、人徳や見識がとぼしい中、大きな責任を任せられることにためらいを覚えます)
輓近世態漸く以て推移し思想は動もすれは趣舎相異なるあり経済は時に利害同しからさるあり此れ宜く眼を国家の大局に着け挙国一体共存共栄を之れ図り国本に不抜に培ひ民族を無疆に蕃くし以て維新の宏謨を顕揚せむことを懋むへし
(最近、世の中は移り変わっており、社会意識は変わるものもあれば変わらないものもある。経済活動は時々、利害が一致しないことがある。国家の大局を見て、国全体が一体となり、共存共栄を図り、国の土台をしっかりとして、民族が永遠に繁栄し、明治維新の広大な計画を高められるよう努力するべきです)
今や世局は正に会通の運に際し人文は恰も更張の期に膺る則ち我国の国是は日に進むに在り日に新たにするに在り而して博く中外の史に徴し審に得失の迹に鑑み進むや其の序に循ひ新たにするや其の中を執る是れ深く心を用ふへき所なり
(今の世の中は変化しており、文化・文明が改めて検討される時期となっている。つまり我が国の方針は日に日に新しくなっている。幅広く国内外の歴史を参考にし、利害を検討し、それに従って新たなことをするにあたっては、とても気をつけるべきです)
夫れ浮華を斥け質実を尚ひ模擬を戒め創造を勗め日進以て会通の運に乗し日新以て更張の期を啓き人心惟れ同しく民風惟れ和し汎く一視同仁の化を宣へ永く四海同胞の誼を敦くせんことを是れ朕か軫念最も切なる所にして丕承なる皇考の意志を継述する所以のもの実に此に存す有司其れ克く朕か意を体し皇祖考暨ひ皇考に効せし所を以て朕か躬を匡弼し朕か事を奨順し億兆臣民と倶に天壌無窮の宝祚を扶翼せよ
(うわべの華やかさを廃し、質素で誠実なことを尊び、人真似には注意し、創造に努め、日々変化し、日々新たに引き締め、教え導き、人々の心や風習をおもんばかり、すべてを平等に慈しみ差別しないことを宣言し、真心と礼儀を持って人と接し親しくなることこそが私が最も心痛めることで、偉大な前天皇の意志を継いで述べることです。ここにいる役人はよく私の意向を心にとどめて行動し、歴代天皇や前天皇に尽くしてきたように、私の欠けたところを補い助け、私の事業を助け、人民とともに永遠に続く皇位を補佐してほしい)