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乾汽船臨時株主総会2019レポ|物言う大株主VS.経営不振の同族会社、社長解任などアルファレオの株主提案はすべて否決

 こんにちは、すずきです。

 11月4日10時から行われた乾汽船株式会社の臨時株主総会。乾汽船は三大海運会社(日本郵船、商船三井、川崎汽船)に次ぐ規模の中堅海運会社。創業家の乾一族が歴代社長を務める同族会社でもあります。

 3月期決算の企業なので、定時株主総会は6月に開催されたのですが、今回は大株主のアルファレオHDが招集請求したことによる臨時株主総会。「3%以上の議決権を半年以上保有している株主は、株主総会招集を請求できる」というルールによって、開催されることとなりました。

直近経営資料:通期決算説明会資料中期経営計画(2017年4月~2020年3月)

株主総会資料:臨時株主総会招集通知

前回株主総会:定時株主総会のレポートは見当たらず

 アルファレオHDは2014年9月から乾汽船株の取得を開始、2018年6月の乾汽船定時株主総会では自社株買いを株主提案しています(株主総会で否決)。

 2019年後半になるとアルファレオHD(「ア」)と乾汽船(「乾」)は表で積極的にやり取りするようになったので、表で時系列を紹介します。

 大まかにまとめると、アルファレオHDが乾汽船株を大量保有→アルファレオHDが株主還元を求める株主提案→乾汽船が買収防衛策導入→アルファレオHDが臨時株主総会を招集請求、という流れです。

日時 出来事
2018
3月
  アルファレオHDが乾汽船にIRインタビュー
4月   アルファレオHDが「政策保有株売却を原資とした自己株取得」の株主提案
4.20   乾康之氏がアルファレオ社長に電話をし、自己株取得に応募する形でのアルファレオ保有株式の売却を依頼→断られる
     
2019
5.14
買収防衛策の導入提案って、どういうこと?
5.14 当社株式の大規模買付行為等への対応策(買収防衛策)の導入について
5.29   アルファレオHDが乾汽船にIRインタビュー
6.12 アルファレオHDより提出された大量保有報告書に関する「変更報告書」の【保有目的】欄の記載内容について
6.21   乾汽船定時株主総会→買収防衛策が可決
9.6   アルファレオHDが定時株主総会決議の取り消しを求めて提訴
9.11 株主による臨時株主総会の招集請求に関するお知らせ
9.26 アルファレオHDからの訴状受領に関するお知らせ
10.7 アルファレオHDに対する質問
10.23 株主による株主総会招集許可の申立てに関するお知らせ
10.28 乾汽船株式会社からの質問状に対する当社の回答
10.28 当社から乾汽船株式会社取締役会宛の事前質問状
10.28 当社から乾汽船株式会社監査役宛の事前質問状
10.29 当社質問状に対する回答書受領に関するお知らせ
11.1 当社株主による事前質問状に対する回答について

 アルファレオHDが臨時株主総会に提出した議案は次の5つ。ただし、乾汽船は「(5)買収防衛策廃止」については議案として取り扱っていません。

 いずれも会社側は反対を表明しています。

(1)取締役の報酬総額(年額)の引き下げ→年額2億円以内から年額9000万円以内に

(ア)年額2億円以内と決議された2008年の時は常勤取締役は5人だったが、今は2人に減っている。また、2019年3月期の純利益が前期比65%減となっているため

(乾)取締役増員の可能性があるため減額の必要はない。取締役報酬は、委員の過半数が独立社外取締役の指名・報酬委員会で審議している。当社取締役は外航海運事業、倉庫・運送事業、不動産事業の3分野の経営判断を担うので合理的な額

(2)余剰金の配当→1株につき38.28円

(ア)2019年3月期の期末配当予想が当初は1株あたり40円だったが、下方修正を繰り返した結果、1株あたり1.72円となった。配当総額が乾康之氏1名に対する報酬を下回っている状況で、現預金110億円もあるので、その差額分の1株あたり38.28円(総額9.5億円)の特別配当をするべき。

(乾)「良いときは笑い、悪いときにも泣かない」を方針とするが、市況の変化への対応、大規模設備投資の実行が不可欠であることから、内部留保の確保を前提としている

(3)取締役1名解任→乾康之代表取締役社長を取締役から解任

(ア)イヌイ倉庫と乾汽船の統合前10年平均純利益は合わせて18.59億円。統合後5年の平均純損失は約6.82億円。統合後に社長に就任した乾康之氏は、企業価値を減少させている。統合前に社長だった乾新悟氏の再登板を求める

(乾)社外取締役「乾康之氏は外航海運事業、倉庫・運送事業、不動産事業の3分野の経験・知見を備え、厳しい市場環境にも関わらず、同業他社と比べてもそん色のない実績をあげてきた」

また、乾新悟氏はアルファレオHDと面識がなく、意思確認なく名前を出されたことに当惑しているとしている

(4)自己株式取得→政策保有株式を売却し、その資金で22億円の自社株買いを

(ア)資本効率を改善するべき

(乾)自社株買いより、「良いときは笑い、悪いときにも泣かない」を基本とする配当方針に基づいた判断をする方が株主利益に資する。内部留保も確保するべき。政策保有株式は必要性や便益が資本コストに見合っていると判断している

(5)買収防衛策廃止→6月の定時株主総会で決議された買収防衛策の廃止

(ア)買収防衛策はアルファレオHDを狙い撃ちにしたもの。経営者の保身のために導入されている

 

 詳しくは表のリンクから各々の主張を読んでもらいたいのですが、簡単にまとめるとアルファレオHD側は「業績悪いのに経営陣が私利私欲に走っている」「株主還元しろ」と主張、乾汽船側は「うるせー、そもそもお前誰やねん」と返している感じです。

 ↓の記事も参考にしていただければ

名門企業に社長解任を求めた“令和の村上ファンド”の「素顔」(現代ビジネス)

 なお2019年3月31日時点の大株主の状況は↓の通りですが、時間も経ったこともあり、いろいろと変わっていると思われます。

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 臨時株主総会の議案からは外れますが、業績は増収減益。

 乾汽船という名前の通り、海運事業が本業のはずなのですが、利益面では海運事業の赤字を不動産事業の黒字で埋め合わせる構図となっています

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株主総会のTwitter実況

 株主総会は普通、会社側が事前に議決権の過半数を押さえていて、会社提出の議案が通ることは株主総会前にすでに決まっているもの。なので株主への説明責任を果たせるかが最大の焦点となります。

 しかし、今回の臨時株主総会は筆頭株主の“物言う株主”VS.同族会社の構図でガチ度が高く、議案が通るかは当日になるまで分かりません。

 株主総会の様子は僕のTwitter(@michsuzu)で「#乾汽船株主総会」のハッシュタグをつけてツイートしていたので、まとめておきます