こんにちは、すずきです。
今年7月19日に公開された新海誠監督『天気の子』。興行収入は140億円弱と今年1位。まだまだ公開中なので、さらに伸ばす気配です。
とはいえ日本での快進撃は落ち着いた感じなのですが、僕が注目しているのは海外での動向。特に11月1日に公開された中国です。
前作『君の名は。』は国内興行収入が250億円なのに対して、中国での興行収入は95億円。中国の経済成長などを考えると、『天気の子』の興行収入は中国が国内を上回ることも予想されるのです。
中国の配給担当は中国第二の配給会社である華夏電影発行。過去には『STAND BY ME ドラえもん』『君の名は。』など、日本で東宝が配給しているアニメ作品の中国展開を担当しています。
日本と違った中国での宣伝事情
『天気の子』の中国公開を前に、華夏電影発行はどのような宣伝をしていたのか。
まずは予告編を見てみましょう。ちなみに、単に現地語の字幕を付けただけでなく、映像自体もオリジナルの編集をしているのは中国だけ(たぶん)。
予告編はいくつか出しているのですが、最初に公開したのがこちらの動画。
※bilibiliや微博などに公開されているのですが埋め込み機能がないため、YouTubeへの転載を埋め込んでいます。多くの人に作品を知ってもらうための予告なので趣旨的には問題ないかなと思うのですが、マズそうならリンクのみにします
日本公開から2カ月、すでに公開している国も多いこともあり、ネタバレをそこまで気にしなくていいという判断からか、「青空よりも俺は陽菜がいい」「天気なんて狂ったままでいいんだ!」と帆高が叫ぶクライマックスシーンまで使っています。
新海誠監督が作った日本版予告編と比べると、物語周辺の日本文化的なものを厚めに入れているような気がします。
もうひとつは帆高が東京で仕事を頑張る姿に焦点をあてた「がんばれ少年!」という予告編。
バイトルとのタイアップ動画のロングバージョンのような感じなのですが、これはこれで面白い視点で僕は好きですね。
こんなポジティブな文脈ではなかったような・・・という気もしますが、夏美さんの就活シーンもうまく活用。
変わり種は陽菜のコスプレをした女の子の実写映像と、アニメの映像を交互に見せていく予告編。
かわいい!!!!!
この女の子、ただのコスプレイヤーではなく人気アイドルの杨超越さん。中国版Twitterの微博のフォロワーは1213万人!で、中国の人口が日本の10倍なことを考えても、かなりの大物。
杨超越さんは、陽菜さんよりちょっと年上の21歳。江蘇省の農村出身で、中学卒業後に家計を助けるため飲食店や縫製工場で働く中、あるアイドルオーディションに参加したことから、シンデレラストーリーを歩むこととなりました。日本だと橋本環奈さんみたいなポジションですかね。
なお『天気の子』の微博アカウントで「世界を救うためには恋人が犠牲になるとしたら、世界と恋人のどっちをとる?」とアンケートをとったところ、世界が546人、恋人が5854人と恋人が圧倒的。
このへん、中国の個人主義の高まりのようなものを感じます。
「新海诚【天气之子】KFC肯德基联动店体验报告」を見ると、ケンタッキー・フライド・チキンともコラボしているようです。
陽菜さんのバイト先のマクドナルドじゃないんだ、と思ったりもしますが。
気象神社の下駄絵馬も再現。
韓国の公開日変更が宣伝スケジュールに影響?
公開1週間前の北京プレミアでは、新海誠監督やRADWIMPS、田村篤作画監督が舞台挨拶。
『天気の子』北京プレミア、念願のRADとの舞台挨拶が実現できました!なんと作画監督の田村さんにもご参加いただけた豪華仕様。これからの中国公開、楽しんでもらえますように。 pic.twitter.com/ocklmWWLK9
— 新海誠 (@shinkaimakoto) October 27, 2019
『天気の子』は主人公が法律を破りまくったり、警察署から逃げ出したりと、反社会的な要素も多く含んでいます。香港の暴動でピリピリしているこの時期に、中国政府が上映を認めたのはちょっと意外な話。
香港の状況、改善するどころか混迷を極めているように見えます。出口はどこにあるんだろう。
— Yojiro Noda (@YojiNoda1) August 19, 2019
どうか暴力以外での解決がなされますように。
Love you people in Hong Kong.
Hope, Peace.
しかし、11月1日の中国公開を前に、新海監督は10月30日が公開日の韓国へと移動。市場規模を考えると、中国で公開当日の舞台挨拶をしないのは不可解な話です。
実は、韓国では10月初め公開予定だったところ、日韓関係の冷え込みを受けて月末へと延期されました。
当初は新海監督が中国で1週間くらいかけて宣伝する予定だったのが、韓国の公開日変更を受け、中国の宣伝スケジュールを変更したのではないかと、個人的には推測しています。
北京での取材をすべて終え、これから韓国に向かいます。ありがとう北京!変わり続ける中国は、今回もとても刺激的でした。 pic.twitter.com/XQebASJeaq
— 新海誠 (@shinkaimakoto) October 29, 2019
中国大手動画サイトのbilibiliでは「新海诚演绎《天气之子》名台词“呐~现在开始要变晴了哦~”【bilibili星访问 第53期】」というタイトルで、新海監督を取材した模様を公開。
「アニメを作ってなければ、普通の会社員か実家の建設会社を継いでいた」と答える新海監督のクソコラを作ったり、新海監督に「今から晴れるよ」と言わせて作中の映像と合成したり、悪ノリしててウケます。
「天門さんがコミックス・ウェーブ・フィルムに所属したが、また一緒に作るのか」などと、明らかに新海監督マニアのインタビュアーが日本語で聞いていて、中国語が分からなくても面白いので、ぜひ見ていただければ。
『天気の子』中国興収は『君の名は。』の半分くらい?
こうした宣伝活動の結果、興行収入はどうなったのか。
中国では猫眼というアプリがほぼリアルタイムの興行収入などを集計してくれるので、その動きを調べてみました。
公開日11月1日3時の段階では2244万元(約3.5億円)で1位。事前にチケットを買った人が多いことがうかがえます。
しかし、徐々に他作品に差を詰められ、昼過ぎには抜かれてしまい、公開初日の興行収入は4555万元(約7億円)の3位となりました。
これ、ちょっと相手が悪いんですよね。
1位の『Better Days』は前週公開の国産映画。
大学入試を控えた女子高生を主人公とした青春物語。予告編を見ると中国語は分かりませんが、学生時代ならではの葛藤や恋心を描いているようで、見てみたくなります。
なお、主演2人の微博フォロワー数は周冬雨さんが3022万人、易烊千玺さんが7986万人と、杨超越さんを大きく上回っています。なんやそれ。
2位は『ターミネーター:ニュー・フェイト』。ターミネーターシリーズの最新作と位置付けられている映画。
11月1日に米中同日公開で、11月8日公開の日本より早くなっています。ハリウッドが中国市場を重視していることが分かりますね。
作品を比較的長期間上映する日本市場と違い、中国市場は短期決戦の色合いが濃くなります。
日本市場だと最終的な興行収入は初動(上映週の金、土、日)の7倍ほどとなりますが、中国市場では初動の2倍が標準。もちろん内容が良かったり、話題性があれば、さらに伸びますが、基本的には最初の3日間の動きを見れば、ある程度の予想が立ちます。
過去作を見ると、2016年12月2日公開の『君の名は。』は初動が2億8428万元(約44億円)で、最終が5億7560万元(約90億円)。
一方、『天気の子』は初動が1億3925万元(約21.6億円)。
なので、最終の興行収入は『君の名は。』の半分くらいに落ち着きそう。日本円にして40~50億円ほどでしょうか。
気になるのは、中国市場では初動が重要なのに『ターミネーター:ニュー・フェイト』と『天気の子』を同日に公開していること。席を取り合っているのです。
両方とも華夏電影発行が配給なので、調整できたと思うんですよね。『ターミネーター:ニュー・フェイト』は米中同日公開なので動かせないとして、『天気の子』はずらせたのではないかと。
中国の興行収入の一部が東宝にも入ってくると株主総会で言っていたので、ここは何とかならなかったのかなと思ったりします。
Q(すずき) 『天気の子』の中国展開について。『君の名は。』の中国興収は90億超だったので、今作は中国の興行収入が日本を上回ることもありうる。が、前作『君の名は。』は利益配分型ではなく買い切り型だったので、あまりメリットが大きくなかったと聞く。今回も買い切り型なのか #東宝株主総会
— すずき@『天気の子』中国公開 (@michsuzu) May 23, 2019
松岡宏泰:契約については詳しくお伝えできないが、すでに中国の大手配給会社と締結している。中国では政府のセンサーシップ(検閲)があり、利益配分できる「分帳型」は年34本まで。そのうち27本が米国枠で、残り7枠は特殊枠だがほぼ米国作品。『天気の子』は分帳型ではない #東宝株主総会
— すずき@『天気の子』中国公開 (@michsuzu) May 23, 2019
松岡:ただ、『君の名は。』も分帳型ではなかったが、利益に応じて配分が行われる契約だった。今回の『天気の子』も同様に分配されるようになっている #東宝株主総会 https://t.co/PirWPCDhdv
— すずき@『天気の子』中国公開 (@michsuzu) May 23, 2019
まあ中国では国産アニメ映画の『哪吒之魔童降世』が興行収入800億円近くの大ヒットとなっているので、そうしたものに比べると特別扱いするほどの大作ではないという判断なのかもしれないですが。
今のところは大ヒットはしなさそうですが、bilibiliで「这就是动画经费足不足的差别」「【新海诚监督】天 气 之 魔」「天气之子真人版预告片的预告片」といった二次創作が人気を集めているので、そういったところから盛り上がっていくのか、注目しているところです。
おまけ
『天気の子』には、前作『君の名は。』の主人公・宮水三葉も登場。
ただ、中国版の字幕ではなぜか“宮本茂”と間違って紹介されていて、感想動画「《天气之子》真神作!男主为追回女主竟持枪威胁警察!【呜喵说】」でネタにされたり、直接関係のない『天気の子』関連動画でも宮本茂弾幕が流れたりしています。どうしてこうなった。