スズキオンライン

なにか役立つことを書きたいです

ANYCOLOR(にじさんじ)株主総会2023レポ|田角陸CEO「今後の長い経営者人生を考える上では、日本を代表して、世界で活躍するようなグローバルカンパニーを目指したい」

 7月28日10時から行われたANYCOLORの株主総会。

 VTuberグループ「にじさんじ」を運営しており、同じく上場企業のカバーが運営する「ホロライブ」などとともにVTuber界を盛り上げています

直近経営資料 2023年4月期決算短信決算説明会資料決算説明会書き起こし
株主総会資料 定時株主総会招集通知
前回株主総会 前回株主総会の招集通知

 そもそもVTuberの歴史を振り返ると、2017年12月に多様なVTuberが生まれたことに始まりがあります。キズナアイさんを筆頭とするバーチャルユーチューバー四天王を中心にVTuber界が拡大、その渦の中ににじさんじの月ノ美兎さんやホロライブのときのそらさんもいました。

 2018年後半になるとブームも落ち着いていったん閉塞気味になったのですが、トレンドが動画から配信に移行。配信をメインとするにじさんじとホロライブが、その波に乗ります。2020年からは新型コロナの感染拡大で、配信への需要がさらに高まるといった出来事もありました。

 近年はチャンネル登録者数が必ずしも影響力を表さなくなっていますが、ひとつの代表的な指標として推移を動くグラフにしてみました。

 チャンネル登録者数の上位にはホロライブのメンバーが多いですが、にじさんじはメンバーの数が多いことから、売上や営業利益はANYCOLORがカバーを上回っています。在籍VTuber1人当たりの年間売上はANYCOLORが1億7600万円(2023年4月期)なのに対し、カバーは2億8500万円(2023年3月期)と大きな差があります。

 2つのグループの違いは、少数精鋭のホロライブに対し多種多様なにじさんじ、アイドルのホロライブに対し芸人のにじさんじ、女性だけのホロライブ(男性はホロスターズ)に対し男女混合のにじさんじなどなど、いろいろ言われています。

 そのひとつに個人が強いホロライブに対して、企画が強いにじさんじというものもあって、これは直近の同接数ランキングをみると分かりやすいです。

 6月は兎田ぺこらさんやさくらみこさんらホロライブのメンバーが上位を占めていますが、7月はにじさんじ甲子園に参加しているにじさんじメンバーが上位。きれいに傾向が分かれています。

 ただ、にじさんじ甲子園のある7・8月はわりと特殊な状況で、それ以外の月は6月のようにホロライブメンバー(特に兎田ぺこらさん)が目立つことが多いです。

 にじさんじとホロライブの特徴は、配信が得意な演者を多く採用していること。

 かつては声優出身の演者が別の人が書いた台本をもとに演じることもあったのですが、質の高い配信を高頻度で行おうとすると、分業が困難なので、そもそも配信が得意な演者でないと厳しいんですよね。無粋なので個別の詳細には触れませんが、にじさんじもホロライブも少なからずの人気メンバーがニコ生の実力者だったりします。

 2017年ごろまではYouTubeでの配信(YouTube Live)は1分以上の遅延があるなど視聴者とのコミュニケーションが難しかったので、配信が得意な人はYouTubeではなく、ニコ生やツイキャスなどで活動していました。

 VTuberという新しい世界に魅力を感じた彼ら彼女らが、YouTubeへの足掛かりも求めて、にじさんじやホロライブのようなVTuber事務所に活路を求めたという歴史的な流れも一部あると思います。もともとYouTubeで人気だったら、チャンネルの管理権限やイラストの権利が事務所側にあるとか、不利な契約を結ぶことには抵抗がありますからね。

 しかし、事務所側が主導権をとれることでメリットも生まれてきて、事務所が宣伝しやすくなったり、ダメな人は事務所がペナルティを与えられるので緊張感が生まれてブランドが保たれたり、事務所内でのコラボが活発になったりとかがあって、事務所がマトモでさえあれば、演者側にとって不利な契約が逆にプラスに働くことがあるようにもみえます。

 一方、今後に関してはニコ生などの実力者が刈り取りつくされたり、個人でYouTubeで大きくなって入ってくれないことも多くなったからか、ANYCOLORではバーチャル・タレント・アカデミー(VTA)という仕組みで育成しようとしています。カバーにはVTAのような仕組みはないので、ここは大きな違い。

 最近のにじさんじのデビュー者はVTA出身者が多くを占めているのですが、まだ超人気者というメンバーはいません。企業の継続的な発展のためには「スカウト運に頼らず、教育で人気配信者は生み出せるのか」は重要なので、ここがどうなるかは見どころです。

 ANYCOLORの経営に話を移すと、業績は増収増益。来期も増収増益見込み

 ライブ配信が活動の中心なので、売上をセグメント別にみると、ライブストリーミング(広告や投げ銭)が多いと思われがちですが、一番多いのはコマース(グッズ)。

 ライブ配信や歌動画、ネタ動画などでブランディングして、「この人好き!」と思ってもらい、グッズを買ってもらうビジネスモデルということですね。

 特にボイス(音声ドラマ)はデジタルグッズで在庫にもならないため、利益率が高く、経営の柱になっているとも言われています。

 他の上場しているユーチューバー事務所の売上をみると、カバーも売上の中心はグッズ。

 一方、UUUMはYouTubeからの広告収入(アドセンス)の比率が高め。しかし、近年流行しているショート動画は広告収入が低めなので(通常の動画が1再生=0.05~0.5円前後なのに対し、ショート動画はその10分の1以下と言われています)、UUUMは売上が減少、営業赤字となったことが話題となりました。

 急拡大するTikTokに対抗するため、YouTubeはショート動画に対しても多くの対価を支払うべきではと思うのですが、これはYouTubeの広告不調も影響してると思うんですよね。ChatGPTなどの生成系AIが検索需要を奪うとも言われていて、Google全体(Alphabet)の状況からも対価を増やせる状況にないので、アドセンス中心の事務所は厳しそう。

Google親会社のAlphabet、増収減益 YouTube広告不調もクラウドは初の黒字(ITmedia NEWS)

企業名 直近売上
(営業利益)
セグメント別(売上に占める比率)
ANYCOLOR 253億円
(94億円)
Live Streaming49億円(19%)、コマース142億円(56%)
イベント16億円(6%)、プロモーション40億円(15%)
カバー 204億円
(34億円)
配信/コンテンツ63億円(31%)、ライブ/イベント34億円(16%)
マーチャンダイジング80億円(39%)、ライセンス/タイアップ26億円(13%)
UUUM 230億円
(-1億円)
コンテクストドリブンマーケティング80億円(34%)
アドセンス88億円(38%)、グッズP2C41億円(17%)、その他20億円(8%)

 決算公告から非上場のVTuber事務所もまとめてみたのですが、ANYCOLORやカバーほどの収益性の高さはなさそうで、華々しい世界は上位だけのようにはみえます(ぶいすぽっ!のバーチャルエンターテイメントはやや古い決算なので、今はもっと伸びてそう)。

企業名 グループ名 決算期 純利益 利益剰余金
バーチャルエンターテイメント ぶいすぽっ! 21年9月期 ▲305万円 ▲6307万円
774 ななしいんく 22年12月期 1437万円 2837万円
クリエイトリング あおぎり高校 22年9月期 3199万円 5260万円

 地域別の売上をみると、日本のにじさんじより、海外のNIJISANJI ENがここ1年の成長をけん引しています。

 ただ、NIJISANJI ENは脱退が相次いでいて、直近でもチャンネル登録者113万人と有数の人気を誇るミスタ・リアスさんが8月27日をもっての卒業を発表しました。

 ホロライブだと「アイドルとして天下とるぞ!」みたいな共通のモチベーションの柱があるのですが、にじさんじの場合、そういった要素が薄いので悩むことが多いかも。そもそも「バーチャルの世界で何か面白いことをしたい」という動機でVTuberになった人にとっては、グッズを売るためのブランディングに抵抗感がある人もいるんじゃないかなとは思います。

日時   ライバー名
22年5月21日 デビュー 壱百満天原サロメ
5月31日 卒業 メリッサ・キンレンカ
7月13日 デビュー 風楽奏斗、渡会雲雀、四季凪アキラ、セラフ・ダズルガーデン
7月20日 デビュー Kyo Kaneko、Maria Marionette、Aster Arcadia、Aia Amare、Ren Zotto、Scarle Yonaguni(NIJISANJI EN)
7月28日 卒業 黛灰
11月27日 卒業 ミユ・オッタフィア(NIJISANJI ID)
11月30日 卒業 アクシア・クローネ
12月6日 デビュー Doppio Dropscythe、Hex Haywire、Meloco Kyoran、Ver Vermillion、Kotoka Torahime(NIJISANJI EN)
12月14日 卒業 遊間ユーゴ(NIJISANJI EN)
23年1月16日 デビュー 五十嵐梨花、小清水透、石神のぞみ、ソフィア・ヴァレンタイン、倉持めると、鏑木ろこ、獅子堂あかり
3月10日 卒業 ランザー・罪恩(NIJISANJI EN)
3月30日 デビュー 赤城ウェン、宇佐美リト、緋八マナ、佐伯イッテツ
4月26日 デビュー 叢雲カゲツ、星導ショウ、小柳ロウ、伊波ライ
5月14日 卒業 ゼア コルネリア(NIJISANJI ID)
5月24日 卒業 朝日南アカネ
5月28日 卒業 タカ ラジマン(NIJISANJI ID)
6月15日 卒業 シスカ レオンタイン(NIJISANJI ID)
6月22日 デビュー Yu Q. Wilson、Vantacrow Bringer、Vezalius Bandage(NIJISANJI EN)
7月16日 卒業 アミシア ミシェラ(NIJISANJI ID)
6月21日 卒業 郡道美玲
7月8日 卒業 狐坂ニナ(NIJISANJI EN)
8月27日 卒業予定 ミスタ・リアス(NIJISANJI EN)

ここ一年の主な動き

2022年6月8日 東京証券取引所グロース市場に上場

9月30日~10月2日 「にじさんじフェス2022」開催

12月5日 誹謗中傷行為等に対するANYCOLOR株式会社及びカバー株式会社による連携体制の構築について

12月12日 「にじさんじ」「NIJISANJI EN」声真似等の注意喚起

12月12日 月ノ美兎(VTuberグループ「にじさんじ」所属)、YouTubeチャンネル登録者数100万人突破

2023年2月6日 にじさんじ5周年を記念した駅広告が全国47都道府県に登場!

3月30日 「にじさんじ」所属ライバーを活用した医師向け動画コンテンツ制作の実証実験を、伊藤忠商事株式会社と開始

6月8日 東証プライム市場へ移行

7月1日 「にじさんじ甲子園2023」開幕

8月1日 株式2分割

手元資金(ネットキャッシュ)の推移

 急成長中。有利子負債が徐々に減っていて、無借金経営を目指してそうです

- 2021年4月期 2022年4月期 2023年4月期
営業CF +13.5億円 +27.1億円 +67.2億円
投資CF -7.5億円 -0.3億円 -1.0億円
財務CF +5.4億円 -4.5億円 0円
- 2021年3月末 2022年3月末 2023年3月末
現預金 36.2億円 58.6億円 124.8億円
短期有価証券 0円 0円 0円
有利子負債 10.1億円 5.5億円 3.1億円
ネットキャッシュ 26.1億円 53.0億円 121.6億円

議案

(1)定款一部変更→監査役会設置会社から監査等委員会設置会社への移行。剰余金の配当等を取締役会決議でもできるように

(2)取締役(監査等委員である取締役を除く。)3名選任

(3)監査等委員である取締役3名選任

前年株主総会〈賛成率〉 今回候補者
田角陸〈100%〉 田角陸(CEO)
釣井慎也〈100%〉 釣井慎也(CFO)
【社外】有富丈之〈100%〉 【社外】有富丈之(弁護士)
  △【社外・監査等委員】前川俊策(元住友商事ケミカル取締役)
  △【社外・監査等委員】梅田泰子(弁護士)
  △【社外・監査等委員】山岡佑(公認会計士)

(4)取締役(監査等委員である取締役を除く)の報酬等の額決定→取締役(監査等委員除く)報酬を年3億円以内に

(5)監査等委員である取締役の報酬等の額決定→取締役(監査等委員)報酬を年5000万円以内に

株主総会のTwitter実況

 株主総会の様子は僕のTwitter(@michsuzu)で「#ANYCOLOR株主総会」のハッシュタグをつけてツイートしていたので、まとめておきます

 ちなみに、ANYCOLORのIR資料には「CONFIDENTIAL」との透かしが入っているのですが、これは上場企業の一般的なIR資料にはない表示。恐らくライバーの画像等の悪用を防ぐための形式的なもので、報道目的なら問題ないだろうということで引用しています。問題があったらご連絡ください’。