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FF14新生スタート時に全力で遊んでいたら身に覚えのないアカウント停止処分を受けたことをきっかけに、スクエニの株主総会に参加するようになった話

 こんにちは! すずきと申します。

 僕は株主総会マニアとして、いろんな株主総会に参加して、質問したり、レポートを書いたりしています。Twitterでも株主総会の模様をツイートしているので、ご覧になったことのある方もいるかもしれません。

 僕が最初に株主総会に出席したのは2012年6月。国立代々木競技場の第一体育館で開催された、東京電力の株主総会です。

 2011年3月11日の東日本大震災を受けて発生した福島原発事故。あれほどの事故を起こした企業の株主総会でどのようなやり取りがあるのか興味があったので、出席することにしたのです。

 株主総会には筆頭株主である東京都の猪瀬直樹副知事(当時)も出席。報道記者やカメラマン、ビラを配る活動家たちが会場を囲む中、10時に始まった株主総会は5時間半にも及びました。

 大量の株主提案の議案、原発に関する質問、動議、ヤジなどが飛び交う中、同じような質問・回答が続くことに疲れた僕は、ドリンクコーナーでお茶を飲みながら、ただ呆然と立ち尽くしていたことを覚えています。

 1年後にはドワンゴと合併する前の角川グループHDの株主総会に気まぐれで出席してみたりもしたのですが、そのころはまだ野次馬気分。

 そんな中、「いろんな株主総会に行ってみたい!」と思わせる出来事が2013年にありました。

 きっかけとなったのはスクウェア・エニックスのオンラインゲーム『ファイナルファンタジー14(FF14)』で僕の身に起こった、とある事件です。

新生FF14でスタートダッシュ

 人気RPGシリーズ、ファイナルファンタジーのナンバリングタイトルとして、FF14が大々的にサービス開始したのは2010年9月のこと。

 しかし、コンテンツ不足や頻繁に生じるラグ、ゲームバランスの崩壊などから酷評が殺到。同年12月、「お客様からファイナルファンタジーとしてご期待いただいている水準に達していないと、深く反省するとともに、心よりお詫び申し上げます」と公式サイトで和田洋一社長(当時)が謝罪するまでになりました。

 ゲーム好きの僕も、酷評されていたFF14をサービスイン当時から遊んでいたのですが、実はそれなりに楽しんではいました。

 ショップで買い物しようとしただけで30秒ほど生じるフリーズも「カセットテープを読み込んでいた1980年代のパソコンみたいだ!」と無理やり自分を納得させつつ遊び、生産職のひとつである裁縫のスキルを全プレイヤー中、最速で最高レベルに上げるまでやりこんだほど。

 他プレイヤーとの取引など、生産職周りの出来事は、もともとゲームに用意されているシナリオとは違い、自分だけの成長・商売物語を体験できるオンラインゲームらしい面白さがあったのです。

 ただ、一緒に遊んでいた友人たちがどんどんやめていったので、2010年末には僕もFF14から離れることになりました。

 炎上プロジェクトとなったFF14のプロジェクトリーダーを引き継いだのが、当時はまだリリース前だった『ドラゴンクエスト10』の開発チームから移ってきた吉田直樹プロデューサー。

 吉田さんは現行のFF14(旧FF14)を改修しつつ稼働させながら、まったく違う新生FF14も同時に開発。移行のために旧FF14が2012年12月に終了し、新生FF14が始まったのが2013年8月のことです。

 旧FF14をそれなりに楽しんだ僕にとって、またみんなと一緒に盛り上がれる新生FF14のローンチは大きな出来事。

 スタートダッシュするため、ベータテストで情報収集したり、以前遊んでいたオンラインゲームで敵対していたグループに逆に入れてもらったり、1人で同時に2体のキャラクターを動かすための環境作りをしたりしました。

 そうした前準備に加え、ほぼ不眠不休でプレイした甲斐があり、新生FF14ローンチの2週間後、新生から追加されたサーバーの中で一番早く、全8種類の生産スキルを最高レベルにまで上げることができました。

 生産スキルが高ければ現実世界と同じく……いや流通コストがゼロに等しいオンラインゲームの世界ではそれ以上にゲーム内マネーを稼げます。

 武器や防具、食べ物といった商品をひたすら作り、マーケットに並べ、欠品が出れば補充して……と何度も何度も繰り返した結果、サービス開始からの1カ月ほどで2000万ギル(FF14の通貨単位)近くを稼ぎました。当時、ストーリークリアまでに手に入るお金が10~20万ギルだったので、その100倍以上稼いでいたことになります。

 そんな商売に明け暮れていたある日、事件が起こります。

 同時に2体操作していたキャラクターのうち、メインで操作していた方のキャラクターが突然ログアウトし、再ログインできなくなったのです。

 何度試しても再ログインできなかったので、プレイヤーサイトからアカウントの状態を確認すると、そこに表示されていたのは「アカウント停止処分」との文字列……

 「な、なんだってー!?」

 

 当初、僕はアカウント停止処分の理由を、1人で同時に2体のキャラクターを操作していたことだと考えていました。ゲームによっては、複数アカウントでのプレイを禁じていることもあるからです。

 しかし、複数アカウントでのプレイはFF14の規約では禁止されていません。仮にそれが原因だとしても、サブのアカウントが処分を受けていないことで矛盾が生じます。複数アカウント分の課金をする必要があるので、運営の収益的にも悪いことではありませんし。ただ、規約的にはOKで、黙認されていても、目立つと処分されるというのはよくある話です。

 

 「なぜだろう?」と思っていると、ゲーム内のお知らせで説明がありました

 「RMT(ゲーム内マネーとリアルマネーの取引)および不正行為への関与が認められたアカウントに対して、ファイナルファンタジー14の永久利用停止または一時利用停止処分を行った」と。

 目を疑いました。僕は当然、RMTや不正行為をしていなかったからです。ゲーム内マネーがリアルマネーで手に入るなら、睡眠時間を削ってマーケットに張り付いたりなんかしませんし、実装が予定されていたハウジングでFC(他ゲームのギルドに相当)の家を買うためにゲーム内マネーをためこんでいたので、リアルマネーにかえる動機もありません。

 アカウント停止処分は1週間ほどで解け、ログインできるようになったのですが、所持金は没収されて、ほぼゼロの状態に。つまり運営側は僕をクロだと判断していたのです。

 詳細を確認するため、サポートに問い合わせると、「不正行為により多額のギルを所持していることが確認できたため、一時利用停止処分を行わせていただきました。しかしながら、大変恐れ入りますが、調査の詳細や、どの行為により不正行為が行われたかの詳細については、個別にお伝えしていない情報となります」との返答。

 

 この時期、DUPE騒動というものがありました。特定の操作をすると、無限にギルが手に入るバグ技が発見されていたのです。僕はもちろんバグ技は使っていないのですが、マーケットで取引をする中で、バグ技で得られたギルを知らずにつかまされている可能性はありました。そのため、「DUPEマネーの調査のためにアカウント停止処分になったのではないか」と推測しました。

 そこでサポートに「『不正行為をしているユーザーを特定するため、所持金が一定以上のプレイヤーのアカウントを一時的に停止しました。その中には不正行為が確認されたプレイヤーも確認されなかったプレイヤーもいました』とゲーム内のお知らせに加えていただけないか」と伝えました。

 

 なぜ、これをお願いしたかというと、オンラインゲームは現実世界と同じく……いやもしかすると現実世界以上に信頼が大切だからです。

 オンラインゲームは運営が不正にしっかり対処できなかった歴史があるため、ユーザー間での自治システムがあり、不正ユーザーの情報は2ちゃんねるの晒しスレなどで“要注意リスト”として共有されます。そこに名前が載ると、ほかのプレイヤーと一緒に遊びにくくなり、引退せざるをえなくなるのです。不正ユーザーと一緒に遊ぶと、自分も不正に関与していると思われてしまいますし。

 

 それまで仲良く遊んでいた人たちも、「アカウント停止処分を受けた」という事実だけを見ると、僕がどう弁解しようと「不正をした」と判断して警戒するわけです。

 「すべてのログを見られる運営が間違った判断をするわけがない」と、この文章を読んでいる中にも「僕が不正を隠している」と思う人も多いでしょう。僕が第三者だったとしても、そう思います。不正をした人が潔白を訴えるのは、大変よくある話だからです。

 疑惑を晴らすため、「どうやって生産スキルをあげたのか」「どうマーケットで商売して、お金を稼いだのか」をブログに詳しく書き厳しい物言いも含まれたコメントに全レスすることで、「僕が不正をしていない」と信じてくれる人は増えました。

 しかし、やはり運営の発表は重いのです。特にスクウェア・エニックスはゲームにかける思いが強い企業で、オンラインゲーム運営全体からすると、不正に厳しく対処している方。そういう意味でも僕を全面的に信じてくれた人は少なかったと思います。

 ブログを書くと同時にサポートとの交渉も粘り強く続けていたのですが、調査結果の詳細については教えてもらえませんでした。

 同様のことを訴えている人は他にも多くいたのですが、こうなるともうゲームは続けられません。「不正者をかくまっている」ということで、所属するFCに迷惑をかけてしまうことにもつながります。

 結局、10月半ばに僕はFF14を引退しました。突然いなくなると「不正行為が証明されてアカウント停止となり、ログインできなくなった」とデマを流される可能性もあるので、日にちを指定しての引退。

 引退前日にリムサ・ロミンサのアスタリシア号で記念写真を撮っていた時、FCのリーダーから「別に不正とかどうでもいいから、俺は一緒にお前と遊びたいんだ」と言われてうれしかったですが、逆に「不正していないからこそ、抗議の意味をこめて課金停止する必要がある」とも思いました。

 サポートやアカウント停止になった人たちとの一連のやり取りの中で、「DUPE騒動で不正したユーザーを処分するため、一定以上の所持金を持っていたユーザーを一律にアカウント停止にしたのではないか」という確信が僕の中で生まれました。

 

 「オンラインゲームの運営は国家を運営していくようなもの」と、吉田直樹FF14プロデューサーなど運営の方たちはよく口にします。

 しかし、国家の場合は三権分立で、政治家に問題があるなら選挙によるガバナンスがききますし、企業でも不正があれば第三者委員会が入ります。

 一方、オンラインゲームにはそうした仕組みがありません。

 自浄作用がないために問題を隠す傾向にあり、問題を把握している人間も一部だけなので、真相が闇に葬られやすくなります。2000年代までのオンラインゲームでは割とよくある話だったように思いますし、『アナザーエデン』のガチャ確率操作事件など、昨今のスマホゲームにも通じる問題です。

 

 「サポートが機能しないのはダメなんじゃないか。僕だけの話ではないし、オンラインゲームの信頼にも通じる問題で、企業業績にも関わりうる」ということで、僕はウルトラCの手段、オンラインゲーム運営の上にあたる機関……株主総会で聞いてみることにしたのです。

スクエニに事前質問状を送ってみた

 アカウント停止事件があったのは2013年9月で、僕がFF14を引退したのは10月。

 しかし、スクウェア・エニックス・ホールディングスは3月決算なので、株主総会は6月開催。最短でも引退の8カ月後になります。そこで忘れないようにグーグルカレンダーに予定を入れて、2014年3月にスクエニ株を購入、晴れて株主総会に出席できる権利を得ました。

 ただ、サービスの品質や信頼性に関わる問題とはいえ、株主総会でいきなりアカウント停止事件について聞いても、一個人のケースなので経営陣は把握しておらず、回答のしようがないでしょうから、事前質問状を送ることにしました。

 株主総会の質疑応答では、回答に調査が必要な場合は説明義務がないのですが、事前質問状が送られていて、調査に十分な期間があれば説明しなければいけないのです。

 

 6月上旬、スクウェア・エニックス・ホールディングスから株主総会招集通知が届くとすぐ、IR宛てに6月9日付で事前質問状を送付。本当は内容証明郵便で送るべきなのですが、「ケンカ売ってるようにみえるのはヤダな」と思ったので普通郵便で送りました(ケンカ売ってるのですが)。

 事前質問状の書式が分からなかったので、検索して見つかった他の会社への事前質問状を参考にA4用紙1枚にまとめました。

 事前質問状の例が検索して見つかることから分かるように、会社によっては事前質問状を公式サイトで公開することもあります。

 「ネットに僕の実名や連絡先が出て、叩かれることがあるかも」とも思ったのですが、「それはそれで面白いかも」ということで気にしないことにしました(結局、公開されませんでした)。

 せっかくなので他に気になっていたことも加えて、送ったのは3つの質問。

 そのうちFF14についての質問は次の通り。個人の問題として聞くと、株主総会の報告事項や目的事項から離れすぎてしまうので、より広い視点で、売上にもかかわる問題として質問しました。

質問:『ファイナルファンタジーXIV』では2013年9月28日、ゲーム内マネーのDUPEが行われたことに対して、関係アカウントの利用停止処分を行いました。しかし、DUPEを行ったプレイヤーだけではなく、それと知らずにそのマネーをつかんでしまったプレイヤーも利用停止にして詳細を説明しなかったため、不正を行っていないプレイヤーのコミュニティ活動が困難になったことがありました。これにより、私もそうなのですが、少なからずのヘビーユーザーが課金を停止する結果となりました。

 このように不正の余波を受けただけのプレイヤーのコミュニティ活動ができなくなるような事態を防ぐための施策は検討しているのか、具体的にご回答ください。

 本当は「不正を行っていないプレイヤーもアカウント停止処分にしたのか?」という点から確認するべきです。

 ただ、確信があったので、「不正を行っていないプレイヤーのコミュニティ活動が困難になった」として、それを前提として質問する形式にしています。

 

 6月25日の株主総会で回答があるかと思っていたのですが、株主総会の1週間ほど前、スクウェア・エニックス・ホールディングスのグループ経営推進部から6月20日付での2ページの回答が簡易書留で届きました。

 これは公的な意味合いを持つ回答なので、原文をご紹介します。

 まず、「詳細については個別にお伝えできません」の一点張りだったサポートと違い、非常に丁寧な回答をいただけたことに驚きました。後に知るのですが、そもそも株主総会前に個人の事前質問状に回答すること自体、珍しいパターンです。

 3問とも詳細な回答をいただけたのですが、FF14のアカウント停止事件についての回答は次の通り。

回答:サービス開始直後のファイナルファンタジーXIVには、ギルやアイテムをDupe(バグやツールを使用してアイテムやギルを複製)するチート行為が確認されておりました。当時、一刻も早く拡大を防ぐため、問題点を即時に修正したものの、短期間に数十億のギルが発行され、さらにギルそのものがゲーム内でトレード可能であったため、不正行為により発行されたギルが他のゲームプレイヤーにも流通する結果となりました。
 この大量の不正ギルを放置すると、ゲーム内の経済秩序に重大な影響を及ぼす可能性が高いと判断したため、全キャラクターデータを精査したうえで、一定のルールに基づいて不正なギルを割り出し、その所持の理由の如何を問わずキャラクターの所持ギルを減額するという措置を採らせていただきました。開発及び運営チームといたしましては、長期間にわたり多くのプレイヤーの皆様にご満足いただけるサービスを提供する予定であること、また全プレイヤーの経済活動を正常なものとするため、やむを得ず上記対策を講じるに至りましたこと、ご理解いただければ幸いです。
 本件の発生を受け、対応策としてDupeが起きないゲーム仕様を念頭において開発を進めており、本件以降、現在に至るまで同様の事例は発生しておりません。
 引き続き、細心の注意を払ってファイナルファンタジーXIVの開発及び運営を継続してまいりますので、今後とも、弊社グループの製品・サービスを変わらずご愛顧くださいますよう、心よりお願い申し上げます。

 ポイントは「所持の理由の如何を問わずキャラクターの所持ギルを減額」という部分。
 当時、他のプレイヤーから「不正してたからギルが没収されたんでしょ」と思われてしまったことから、コミュニティ活動が困難になりました。こういう回答をいただけたことで、不正を行っていないプレイヤーもアカウント停止&ギル没収された可能性があることが明確になったのです。

 

 もちろん「不正を行っていないプレイヤーもいるかもしれない」というだけで、僕が不正を行っていないことを証明しているわけではありません。しかし、不正をしていたらすべてのログを持っている運営に対して、こんなに堂々と問い合わせないでしょう。

 ちなみに回答では、ギル減額には触れていますが、アカウント停止については触れていません。これは「FF14が月額課金のオンラインゲームなので、アカウント停止期間分の補償が発生しうるからではないか」と個人的には推測しています。

 それにしても、よくある運営のように知らぬふりで逃げず、踏み込んだ説明をしていただいたのは、勇気ある決断で素晴らしいと思います。株主総会の質問であっても、説明義務はあるのですが、あいまいに答えたり、方向性の違う回答をすることも可能だからです。吉田さん含め、スクエニの従業員にヘビーゲーマーが多く、理不尽な判定を受けたプレイヤーの気持ちが分かるからこそ、「ここは認めておこう」となったのではと推測しています。

 相手がめんどくさい人なら「じゃあギル返せ!」と言われることもあるかもしれません(利益供与の要求で総会屋判定されそう)。

 ただ、僕のゴールはあくまで名誉回復と、同様の問題が起こらないようにすることなので、この回答をいただけたことに感謝して、FF14に復帰することにしました。僕は信用が傷つけられたことは大きな問題だと感じているのですが、ゲーム内マネーについてはバグとかで失っても、ゲームに穴があるのはよくある話だし、意図的なものでなければ、それはそれで面白いかなと思っているからです。

 この件に関してはゲーム内ブログでも詳しく書いたので、僕のキャラクター名である「Pole Star FF14」で検索していただけると、当時の記事がたくさん見つかるはずです。

 

 余談ですが、当時所属していたFCで僕は財務責任者でしたが、引退したことで、FCではお金周りの管理が雑になりました。

 FF14では2013年12月にハウジングが実装され、FC単位で家を買えるようになったのですが、買うためには莫大な資金が必要でした。

 FCでは一番大きな家を買おうと無理な金策をした結果、メンバー間に温度差が生まれ、FCのリーダーが金策に協力的でないとみたメンバーを追放したことから、ネット上で大バトルが発生。追放されたメンバーに同情した人たちがレベル1のマッチョキャラを大量に作り、FCの家に押しかけてデモをするという、FF14の歴史にも残る“エガオハウス事件”という祭り(?)が発生しました。

 僕は引退した後なので揉めごとの詳細は分からないのですが、引退するまで仲の良かった人たち同士がケンカし、財務責任者の僕が抜けたことが遠因にもなっているので、大変悲しかったです。

 この事件の影響で、僕がFF14に復帰した時には、ほとんどのFCメンバーがゲームをやめてしまっていましたし。みんな元気にしてたらいいですね。

スクエニの株主総会に行ってみた

 さて、肝心のスクウェア・エニックス・ホールディングスの株主総会はどうしたのか。

 実は事前質問状の回答、FF14の部分は問題なかったのですが、別の質問で誤認して回答している部分がありました。

 1問目は「YouTubeで自社ゲームPVの前に、他社ゲームの広告が流れるのは良くないのでは。お金にならないなら広告なしにしては?」という意図なのですが、「なぜYouTubeで自社ゲームの広告(PV)を流すのか?」という質問に回答した形になっていたのです。

 正直、事前質問状は遠くから石を投げているようで、ちょっと卑怯な行為だと感じていました。そこで、改めて面と向かって聞き直すためにも、堂々と株主総会に出席することにしたのです。

 

 スクウェア・エニックス・ホールディングスの株主総会が行われる2014年6月25日。僕はスーツにネクタイを締めて、開催場所のハイアットリージェンシー東京を訪れ、会場最前列左寄りの席に座りました。

 定刻の10時になると役員が入場して、株主総会開始。

 議長の松田洋祐社長(当時)は、前年の株主総会で和田洋一さんの後をうけて社長に就任したため、議長として迎える初めての株主総会。ただの取締役として参加していた今までと大きく役割が変わるため、ちょっと緊張しているようにみえました。

 業績の報告などが終わると、いよいよ質疑応答。

 最初から手を挙げていたのですが、スクウェア・エニックス・ホールディングスの株主総会は質問を希望する人が多いので、当たったのは4番目。

 「それでは一番前のスーツの方」

 松田さんに指名されると、スタッフがハンドマイクを持ってきます。パイプ椅子から立ち上がる時にちょっとバランスを崩したら、松田さんが「あっ、大丈夫ですか」と気遣ってくれました。

 

 まず、事前質問状に回答いただけたことにお礼を言うべきか迷ったのですが、他の株主には分からない話なので言わないことに。

 株主番号と名前を名乗ってから、YouTubeのPVに広告をつけている点について改めて尋ねると、「こいつが事前質問状を送ってきたヤツか!」と松田さんの顔に緊張が走ります。

 事前質問状への回答と少し違い、「YouTubeに動画をアップロードすることで、大きな広告収益は得られていない。PS4やXboxOneは動画のアップロードができるため、どう楽しんでもらうかが大きなテーマ。ゲームを活性化させる上で重要だが、違法な動画には対処していく。日々、研究していきたい」と答えていただけました。

 「大きな広告収益を得られていないなら、離脱率が上昇する広告を外して、PVを見てもらいやすくした方がいいのでは?」とも思ったのですが、「あまり言いすぎるのもどうか」ということで一礼して質問を終えました。

株主総会は経営というストーリーの中での重要なシーン

 スクウェア・エニックス・ホールディングスでは、コロナ前は株主総会の後にIRカンファレンスという場を設けていました。冒頭で手がけている作品の映像を流し(直前のE3で流した内容とほぼ同じ)、次に株主総会には参加していなかったドラクエやFF担当の執行役員も加わった質疑応答に入るのです。

 ここでは手を挙げずにじっと聞いていたのですが、やりとりが面白いんですよね。

 『ドラゴンクエストモンスターズ スーパーライト』の不具合問題や、『ファイナルファンタジーアギト』のデータ引き継ぎ問題など、プレイヤーでないと分からない内容の質問も多かったです。

 「こういうのは当たり前」と思うかもしれないですが、他の株主総会は事業内容を知らない株主が参加することが少なくありません。

 『パズル&ドラゴンズ』が社会現象になったガンホーのような企業だと、「今、めっちゃニュースになっているじゃないですか!」と証券会社がゲームをしない高齢者に営業して、株を買わせていたりします。当然、彼らは企業が何をやっているのか詳しく知らないので、株価対策や配当方針、係員の対応などが頻出質問になるのです。

 この4年後、2018年株主総会での話ですが、スクウェア・エニックス・ホールディングスの株主総会が他とは違っていることを示す象徴的なシーンがありました。

 この株主総会で長く務めてきた取締役から外れることになった元エニックス社長の本多圭司さんが、最後に次のようなあいさつをしたのです。

本多圭司取締役:30年強、スクウェア・エニックスで仕事をしてきた。この30年間は業界の勃興成長と軌を一にしてきた。

 事業自体の拡大もそうだが、地域的にも米国や中国で仕事をしてきた。スクウェアとの合併など、ものすごくたくさんのことがあった。ものすごく充実した人生となったのは幸運だった。

 今日の株主総会もそうだが、我々の株主総会は収益とか業績だけではなく、我々のコンテンツを非常に好きな方に株主になっていただいている。

 こういった環境の中で約20年間、取締役をやれたのは本当に幸せだった。会社としては「ますます成長していく」と確信しているので、これまでと変わらずご支援いただければ。本当に長い間、ありがとうございました。

 株主総会やIRカンファレンスでは厳しい質問もあるのですが、本多さんの言葉にあるように根本としてはスクエニのコンテンツを好きな人たちがみんなで、役員や開発担当者にインタビューしている感じなので、勉強になる内容も多くなります。

 また、株主総会は上場企業の経営というストーリーの中での重要なシーンでもあります。特に本多さんのように、取締役が退任する時には、株主総会が取締役としての姿を見せる最後の公式な場所となります。株主もストーリーの登場人物となるので、僕の場合は自分の思いは置いておいて、退任する取締役にひとこと発言してもらうなど、「こうしたら場の価値が上がるだろうな」という言動を意識していることもあります。

 「株式を広く社会に公開している上場企業なのに、こういう内容が広く伝えられないのは社会にとっての損失だ」と思ったので、この次の年からさまざまな上場企業の株主総会に参加して積極的に質問し、レポートを書くようになった次第です。

 

 スクウェア・エニックス・ホールディングスの株主総会にも毎年参加して、質疑応答で元気に手を挙げているのですが、事前質問状を送ったせいで顔を覚えられたのか、最前列中央で手を挙げているにもかかわらず、当てられる順番が遅めになるなど、若干、“問題株主”的な扱いを受けた雰囲気はありました。

 2015年株主総会では松田さんが僕を指名した時、マイクを持ってくるスタッフが「こいつ去年、事前質問状送ってきたやべーヤツですよ! いいんですか?」みたいな目で松田さんをちらりと見ると、松田さんが「いいんだ、しゃべらせてやれ」的な雰囲気で小さくうなずくシーンも。

  僕の妄想かもしれませんが、スクエニの人は形式ばった場が苦手なのか、いろいろ伝わってきて、そういう不器用なところはエンタメ企業としては逆に好感を持ったりもしました。

 松田さんはフェアなので、その後の年もしつこく手を挙げていると、「しょうがねえな」という感じで必ず当ててくれます。まともな質問をするようにしているので、問題株主と認識されなくなったのか、2018年株主総会のIRカンファレンスでは、晴れてトップバッターで当ててもらえてうれしかったです。

 

 事前質問状を送ると、企業側にもそれなりの手間が発生するので、さすがにウルトラCの手段だと思っていて、僕が送ったのはこの1回だけ。

 僕が詳しく知っていて、調査が必要かつ企業的にも大きな問題だと思ったら、また送ることがあるかもしれませんが、「そうそうないだろう」とは思っています。

 ちなみにその後、2016年3月に格闘ゲーム配信者として知られる総師範KSKさんが、僕と似たパターンでオンラインゲーム『ドラゴンクエスト10』で処分を受けたことがありました。「突然、アカウント永久停止となり、当初はRMTの疑いとしか伝えられなかった」と。

 KSKさんがサポートに連絡すると、「個人間で取引できるバザーにほぼ無価値のアイテムを超高額の値段で出していて、それをRMT業者が購入したためにアカウント永久停止にした」と教えてくれたそうです。

 KSKさんは敵が多い人なので、KSKさんを陥れるために、嫌がらせでRMT業者からゲーム内マネーを買い、不正なマネーでKSKさんがバザーで販売していた超高額のアイテムを買ったことは考えられますし、KSKさんはそう主張しています。

 配信者にいたずらをする例は非常に多いですし、KSKさんの知り合いにゲーム内マネーを多く持つ“大富豪”がいることから、知名度も高いKSKさんが不正行為をする動機も薄いので、KSKさんの主張に信ぴょう性はあります。

 しかし、運営側から見るとRMT業者とKSKさんがゲーム外でつながっていなかったかは分からないので、KSKさんも「処分は妥当」と認めていました。

 とはいえ、アカウント永久停止の理由を詳しく説明してくれているのは、僕のケースとは大きく違っているところ。「もしかすると、僕が事前質問状を送ったことで、スクエニのサポートマニュアルが変わったりしたのかな」と思ったりもしました。

新生10周年おめでとうございます

 あれから10年、マックのハンバーガーは100円から170円へと値上がりし、コロナ禍を経て白髪が目立つようになった松田さんは今夏に社長を退任、ゲームを取り巻く環境も随分変わりました。

 時代はスマホゲームやニンテンドースイッチ、FPSへと移り、MMORPGは続々とサービス終了(今夏、『BLUE PROTOCOL』がサービス開始しましたが)、SNSや動画サイトの広まりでVTuberなどの個人がゲーム実況で強い影響力を持つようにもなりました。

 有名人でなくてもSNSで問題を訴えると、大きく拡散して対応されることもあるので、今だと株主総会で訴える必要もないのかもしれません。一方、炎上で視聴数を稼げればいいという媒体の増加で、問題解決がゴールとなっていないこともしばしばあるようにみえます。

 

 10年の間、僕はFF14にそれほどログインしていたわけではないのですが、ゴールドソーサーや麻雀が実装された時には復帰して遊んでいました。

 地上波で『ファイナルファンタジーXIV 光のお父さん』が放送された時、FF14内のハウジングに集まって同時視聴する配信を細々としていたら、元気だったころの原作者・マイディーさんがふらっと寄ってくれたことは忘れられない思い出です。

 別の企業やサービスで不公正な運営が行われることへの抑止力となる意義もあるので、新生FF14から10年という節目に、こういうこともあったんだよと、ひとりのプレイヤーのアナザーストーリーを改めて書いてみました。

 10周年おめでとうございます! 今後の世界の広がりも楽しみにしています。

※このエントリの内容は2018年の冬コミで頒布した『株主総会へ行こう! すずきの潜入ドキュメント』の一部内容を再構成したものです