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経済産業省がネット経由の株主総会(バーチャル株主総会)について意見募集していたので送ってみた

 こんにちは、すずきです。

 新型コロナの影響でさまざまな業界が新しい試みをしていますが、株主総会の運営方法にも変化が生まれています。

 多くの株主(しかも高齢者多数)が一堂に集まる株主総会は、新型コロナの感染リスクが懸念されます。そのため、ネットを通じた株主総会(バーチャル株主総会)が積極的に行われるようになっているのです。

 ただ、バーチャル株主総会は行われるようになってまだ日が浅いので、いろんなルールが整備されていません。なので経済産業省がルール作りを進めていて、今、コロナ下の2020年株主総会を受けての意見を募集しています。

「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド(別冊)実施事例集(案)」についての意見を募集します(経済産業省)

 「政治家でもないと行政には関われないのでは」と思う人もいるかもしれませんが、意外と国はこういったパブリックコメントをよく募集していて、話を聞いてくれるんですよね。ただ、パブリックコメントを募集していることがメディア等で適切に伝えられないので、結果的に一部の業界関係者の都合のいいように進められたりしますが。

 バーチャル株主総会については、実は新型コロナ前からちょくちょく意見募集をしていて、僕が知る限りでは今回が3回目です。

第2回 新時代の株主総会プロセスの在り方研究会(2019年9月30日)

「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」を策定しました(2020年2月26日)

 2回目の意見募集では、僕も↓のように意見を送りました。めっちゃシンプル。

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 取り上げるべき意見であると判断されると、↓のように経済産業省が見解を示してくれます。

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 新型コロナ下でバーチャル株主総会が多く行われた2020年。僕もいくつか参加して思うところがあったので、以下の5つの意見を経済産業省に送りました。

 (1)バーチャル株主総会の事前登録期限が早すぎる企業があった(12ページ目)

 株主のみにバーチャル株主総会の閲覧を認めていた企業がいくつかあったのですが、その事前登録期限が早すぎる企業がありました。実施ガイド掲載の企業の株主総会日と事前登録期限の一覧がこちら。

企業名 事前登録期限 株主総会日
GMOインターネット 事前登録必要なし 3月30日
Zホールディングス 事前登録必要なし 6月23日
アステリア 事前登録必要なし 6月24日
アドウェイズ 6月15日 6月23日
ガーラ 6月21日 6月27日
ガイアックス 3月27日 3月27日
グリー 9月18日 9月29日
グローバルウェイ 6月16日 6月19日
ソフトバンクグループ 事前登録必要なし 6月25日
パイプドHD 事前登録必要なし 5月27日
ラクーンホールディングス 7月20日 7月23日
富士ソフト 3月6日 3月13日

 一般的な株主総会では当日、議決権行使書を持っていなくても、株主と確認できれば会場に入れます。

 株主総会の1週間以上も前に事前登録期限を設けていた企業があるのですが、当日になって参加できないと気付いた人もいるのではないでしょうか。

 バーチャル株主総会の仕組み自体、まだ浸透していない現状を考えると、事前登録期限が早すぎると思います。また、質疑への参加や議決権行使は厳重に株主の確認をするべきだとしても、少なくとも映像はすぐに見られるようにするべき(そもそも公開にするべき)だと考えます。

(2)質問の取捨選択について(28ページ)

 多くの企業では、バーチャル株主総会で取り上げる質問が恣意的にならないように、選択基準を示してはいるものの、実際にどのような質問が寄せられたかを開示していないことが多いため、その選択基準が守られているかが分かりません。

 個人情報が含まれるなど、公開に不適切な部分は除いて、寄せられた質問の一覧を開示するべきだと考えます。

 また、ソフトバンクグループは寄せられた質問の一覧を開示しているのですが、株主総会が6月25日だったのに対して、ソフトバンクグループIRによると開示したのは7月中旬。時期が離れてしまうと株主が気付きにくくなってしまうので、できるだけ早く開示するべきだと思います。

’(3)株主総会動画をアーカイブとして残しておくべき(19ページ)

 通信障害対策や参加できなかった株主のためにも、株主総会動画を質疑応答部分含めて、アーカイブとして残しておくべきだと考えます。

 ブイキューブのようにアーカイブから質疑応答部分をカットする企業もありますが、株主の個人情報などが入っているなら、その部分だけ伏せて公開すれば問題はないはずです。

 添付したテレビ局2社の株主総会議事録のように、質疑応答部分でどのような質問・回答があったか詳細に書いていない企業も少なくありません。議事録の閲覧請求をしても質疑応答の内容が分からない可能性があるため、質疑応答部分含めた動画アーカイブは必要です。

 また、バーチャル株主総会ではありませんが、日本テレビHDのように動画アーカイブの公開期限を定めている企業もあります(6月26日株主総会の内容を7月末まで公開)。

 株主総会の内容をもとに1年間経営するわけなので、少なくとも次の定時株主総会までの1年間、できれば株主総会議事録保存義務と同じ10年間は動画アーカイブを残しておくべきだと考えます。

(4)肖像権配慮を名目に過剰な情報伝達制限をかけているようにみえる(14ページ)

 グリーでは株主総会ページに「本ページの内容の複製及び転載は禁止」との但し書きがありました。

 株主の肖像権や個人情報を守るための配慮は必要です。しかし、この書き方だと株主総会で議論された内容を外部に伝えること自体を禁じていると誤認します。

 株主総会前にグリーにメールで確認したところ、「株主様のみにご案内している内容については、株主様以外の方を含む不特定多数の方に対し閲覧可能な状態とすることはお止めいただきたいという趣旨でございます。例えば、株主総会ポータルは株主様のみにID・パスワードをご案内差し上げており、ログイン後のトップ画面やライブ配信画面は株主様のみがアクセス可能ですので、これらを株主様以外の方にお見せいただく行為はお控えください

 株主総会に限らず、当社著作権に対する侵害行為につきましては然るべき対処を検討いたしますが、株主総会にご参加いただいた個人のご感想をブログやTwitter等に掲載いただくことは問題ございません」という返信をいただきました。

  株主および潜在的に株主になりうる投資家の間で情報伝達が行われることは望ましいですし、個人情報などが守られるなら、そもそも表現の自由の範囲内でもあります。「株主総会の内容を伝えること自体を禁じている」と誤認させないことは徹底するべきではないでしょうか。

(5)転載目的ではなく、株主総会の決議取消訴訟等に備えて個人的に録音することの可否(14ページ)

 (4)とも関連しますが、実施ガイドに「撮影・録音・転載等を禁止する等の対応をとることが考えられる」とあります。

 しばしば株主総会では決議取消訴訟が提起されますが、転載目的ではなく、裁判の証拠のための個人的な撮影・録音まで制約しているかのような但し書きは避けるべきではないでしょうか。

■意見送付期限は1月22日まで

 僕は結構、株主総会のレポートを書いているのですが、なぜ書くかというと、それによって株主総会の価値が上がるんですよね。

 株主総会の内容が広く伝わるのなら、運営サイドにも質疑応答でよりしっかり答えようというモチベーションが生まれるので。運営サイドは株主総会に向けた準備をめちゃめちゃしているのですが、「少数の会場参加者にしか伝わらないなら適当に乗り切る方に力を入れるか」となるのはもったいないと思うんですよね。

 ただ、発言の一部を抜粋して、発言者の意図とは異なる内容を伝えたりすると、運営サイドがムカついて、まともに答える意欲を失うので、レポートする側としては、曲げて伝えないことは大切です!

 

 こういう意見募集には運営サイド(企業)の意見はよく送られるのですが、投資家サイド(株主)の意見があまり送られなくて、結果的に企業寄りのルールが作られてしまいがちです。

 経済産業省では1月22日まで受け付けているのですが、いろんな意見が集まるといいですね。

■(追記)経済産業省の回答が公開されました

 2月になって、経済産業省の回答が公開されました。僕が送った意見への回答は塩対応な感じですが、意見が5通と少ない割にはいい内容が集まったように思います

 →「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド(別冊)実施事例集」を策定しました(経済産業省)