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KADOKAWA株主総会2025レポ|夏野剛社長「買収提案があった場合、株主・クリエイター・従業員にとって納得いくものであれば前向きに検討すべき。経営陣が経営陣であることを続けるために拒否してはいけない」

 6月26日14時から行われたKADOKAWAの株主総会。

 出版の角川グループとニコニコのドワンゴが合併して誕生した会社ですが、近年はゲームや教育など事業が多角化。昨年はサイバー攻撃で全社的に大変なことになりました。

直近経営資料 2024年3月期決算短信決算説明会資料中期経営計画
株主総会資料 定時株主総会招集通知
前回 KADOKAWA株主総会2024レポ|夏野剛社長「サイバー攻撃の事業への影響については試算に至っていない。整い次第、発表する」

 サイバー攻撃の影響が大きく、業績は増収減益。来期は増収増益見通し。

- 売上 営業利益 純利益 PER PBR 時価総額
KADOKAWA・23年3月期 2554億円 259億円 126億円      
KADOKAWA・24年3月期 2581億円 184億円 113億円 28.6倍 2.01倍 4042億円
KADOKAWA・25年3月期 2779億円 166億円 73億円 51.7倍 2.36倍 6001億円
KADOKAWA・26年3月期予想 2919億円 167億円 114億円      
サイバーエージェント・25年9月期予想 8200億円 420億円 210億円 39.2倍 5.05倍 8233億円
スクウェア・エニックスHD・25年3月期 3245億円 405億円 409億円 44.8倍 3.83倍 13123億円

※株価は株主総会の前営業日終値を使用。PERは予想、PBRは実績

 セグメント別にみると、売上は出版・IP創出>アニメ・実写映像>ゲーム>Webサービス>教育・EdTechの順ですが、営業利益はゲーム>出版・IP創出>アニメ・実写映像>教育・EdTech>Webサービスの順。

 『ELDEN RING』のヒットが、ゲーム分野の好業績のけん引役となっています

 売上上位タイトルをみると、KADOKAWAのここ10年ほどの売上をけん引してきた『ソードアート・オンライン』を超えて、絵本の『パンどろぼう』が1位にランクイン。

 KADOKAWAの場合は自前の雑誌などで育てた作品ではなく、小説投稿サイトなどでの人気上位を引っ張ってきた作品が目立ちます。

 なお『【推しの子】』は『週刊ヤングジャンプ』(集英社)の作品ですが、アニメでは製作委員会にKADOKAWAが入っています。

 KADOKAWAは世界展開を進めており、海外拠点売上高も順調に伸びています

 一方で心配なのがWebサービス(ニコニコ)。

 サイバー攻撃の影響を一番受けたのは仕方ないですが、減りつつけているプレミアム会員数が98.9万人とついに100万人を下回りました。

ここ一年の主な動き

2024年 6月8日 サイバー攻撃でシステムがダウン

7月3日~10月6日 アニメ『【推しの子】』2期

10月2日~11月20日 アニメ『Re:ゼロから始める異世界生活』3期

11月12日 株式会社KADOKAWA及び 株式会社KADOKAWA LifeDesignに対する勧告について(公正取引委員会)

12月11日 カカオピッコマと業務提携

12月19日 ソニーグループと資本業務提携

2025年2月5日~3月26日 アニメ『Re:ゼロから始める異世界生活』3期

2月17日 アニメ制作における撮影とCGに強みを持つチップチューンを子会社化

4月1日 ドワンゴ、ブックウォーカー、 KADOKAWA Connectedを合併

5月30日 『ELDEN RING NIGHTREIGN』発売

手元資金(ネットキャッシュ)の推移

 2024年12月にソニーグループと資本業務提携したことで約500億円を調達しました。

- 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期
営業CF +175億円 +82億円 +138億円
投資CF -162億円 +34億円 -84億円
財務CF +307億円 -658億円 +441億円
- 2023年3月末 2024年3月末 2025年3月末
現預金 1313億円 798億円 1296億円
有利子負債 652億円 253億円 266億円
ネットキャッシュ 661億円 544億円 1029億円

議案

(1)取締役12名選任

前年株主総会 今回候補者
夏野剛 夏野剛(代表取締役社長、ドワンゴ社長)
山下直久 山下直久(代表取締役、角川書店系)
村川忍 村川忍(営業・マーケ、角川書店系)
加瀬典子 加瀬典子(アスキー総研社長)
川上量生 川上量生(元社長、ドワンゴ顧問)
▼周欣寧(海外担当) 【社外】鵜浦博夫(元NTT社長)
【社外】鵜浦博夫 【社外】ジャーマン・ルース マリー(海外)
【社外】ジャーマン・ルース マリー 【社外】杉山忠昭 (元花王法務・コンプラ部門統括)
【社外】杉山忠昭 【社外】笹本裕(元Twitter Japan代表取締役)
【社外】笹本裕 【社外】宇澤亜弓(公認会計士)
▼【社外】芝昭彦(弁護士) 【社外】岡島悦子(プロノバ社長)
【社外】宇澤亜弓 △【社外】草野耕一(弁護士)
▼【社外】M・デービッド(元ディスカバリーJP社長)  
【社外】岡島悦子  

株主総会のTwitter実況

 株主総会の様子は僕のTwitter(@michsuzu)で「#KADOKAWA株主総会」のハッシュタグをつけてツイートしていたので、まとめておきます

(事前質問)2025年3月期に発生したサイバー攻撃の影響で計上した特別損失24億円の内訳は

夏野:当社グループのデータセンター内サーバーへのサイバー攻撃に関わるニコニコサービスのクリエイター補償及び調査、復旧作業などに関する費用

(事前質問)現時点でのグローバル展開の実績、今後の提携展開予定に関して

夏野:当社は、基本戦略であるグローバル・メディアミックス with Technologyのもと、中期経営計画の最終年度に海外売上高700億円の達成を目指している。

 海外事業の成長に向けた具体的な取り組み。出版事業では、欧州や米国の市場でも日本のコミックやライトノベルの需要が引き続き拡大している。2024年以降、新たに韓国、フランス、イタリアなどに拠点を拡大していく。

 今後も、日本国内で製作した書籍IPの海外展開を加速させるとともに、海外原作IPの作品開発及び権利獲得を進めて、日本を含めた世界の市場でメディアミックス展開をしていきたい。

 アニメ事業では、継続的な事業成長により、今では事業の約半分が海外売上高となった。今も、海外OTT(インターネット回線を通じて提供されるコンテンツやサービス全般)との連携などを通じて、海外における配信MD収益の拡大を目指していく。

 ゲーム事業では、子会社のフロム・ソフトウェアを中心に海外でのヒットタイトルを生み出し続けている。今後も引き続き強力なIPの創出に努めるとともに、自社パブリッシング範囲の拡大を実現することで、海外での収益規模の拡大を図っていきたい

(事前質問)業界の問題となっているアニメ制作会社の労働環境などの待遇に関し、どのように課題に向き合っているか

夏野:収益性が高く成長分野であるアニメ事業において、当社では、より高品質かつ安定的な制作体制の構築のため、アニメスタジオの内製化を進めている。

 バックオフィス部門の統合などを通じて効率化を進めるとともに、労働時間や給与面などを含めて、アニメーターの方々にとって最も働きやすい制作スタジオグループを目指したい

(事前質問)出資者であるIPホルダーとして、アニメ事業では作品がヒットするか否かのリスクをどのようにマネジメントしているか

夏野:当社のアニメ事業では、多様なラインアップを維持することを戦略として掲げている。それによって、国内外の幅広いユーザー層のニーズに応えることができると考えている。

 世界的にアニメ作品の人気が高まっているので、ユーザーの嗜好がますます多様化している。当社はさまざまなジャンルの出版原作を自社で数多く保有しているので、これがアニメラインアップの多様化に大きく貢献している。

 加えて、近年では自社原作のみならず、他社原作のアニメ化にも注力していて、より広いユーザー層へのリーチを実現している。

 この多様性こそが、リスクマネジメントとして機能していると自負しているし、これまで数多くのアニメ作品を自社のメディアミックスで手がけてきたノウハウもヒット率の向上に寄与していると考えている。

 また、人気シリーズ作品を含む豊富なアーカイブ作品が継続的なライセンス収入につながり、アニメ事業の安定的な収益基盤となり、今後のアニメ事業の成長を支えるものと考えている

(事前質問)2024年6月にサイバー攻撃を受ける前のセキュリティ対策の検討体制について

夏野:当社グループでは、取締役会の監督のもと、執行役社長である私を委員長として、事業部門を始め各部門を統括するチーフオフィサーや執行役を委員とするリスク管理委員会を設置している。

 取締役会では、年1回開催されるリスク管理委員会での協議内容の報告を受けることで、全社的な情報セキュリティの監督を行っている。

 その他にも、サイバー攻撃以前から、サイバー攻撃のリスクを踏まえて、会社が保有する情報資産に対する不正アクセス、改ざん、滅失、妨害情報の漏洩などから保護された情報システムの構築、運用、セキュリティ専門組織の設置、セキュリティインシデントや脆弱性情報の周知、セキュリティに関わる個別対策などを実施している。

 なお、当社のシステム環境に関する具体的な質問もいただいたが、セキュリティの観点から回答は差し控えさせていただく。

 サイバー攻撃を受ける前から、特にニコニコは国内有数の動画サイトであることから、継続的な攻撃は受けていた。それらの攻撃はかなり弾き返していたが、今回はインシデントとして非常に残念な結果となった。これを機にさらなるサイバーセキュリティ対策の強化を図っている。

 

(事前質問)サイバー攻撃で多大な被害が発生した背景について

夏野:当社が調査を委託した社外の大手セキュリティ対策企業の調査によると、現時点では攻撃の経路及び方法は確実には解明されていない。しかし、フィッシングなどの攻撃によって従業員のアカウント情報が摂取されてしまったことが本件の根本原因であると推測されている。

 摂取されたアカウント情報を利用して社内ネットワークに侵入され、ランサムウェアの実行及び個人情報の漏洩につながったと推測されている。

 

(事前質問)サイバー攻撃においての身代金支払い報道について

夏野:本事案については現在も警察による捜査が継続しており、当社が何らかのコメントをすることにより、捜査の妨げとなる可能性や、サイバー攻撃を企てる者に対して参考となる情報を提供することになる。ひいては、株主共同の利益を著しく害する可能性があるため、回答は差し控えさせていただく。

 今回のサイバー攻撃においては、一次被害である攻撃そのものとともに、一部の報道機関なのかメディアなのかは別として色々なことが報道されたり、一般のネットユーザーが情報を拡散したことによる二次被害がかなり大きく発生していると認識している。

 必要以上に情報を開示することは、さらなる被害を拡大することにもなるし、株主共同の利益を阻害する可能性があると認識している。

 質問の趣旨は、「サイバー攻撃に関して、私たち役員が適切な対応を行ったか否か」というガバナンスの点にあると解釈している。

 当社は平素より適切なガバナンス体制を維持、強化することを重視している。これは、過去に色々な事件があったことに鑑みて、現在の体制を作っている。なので、昨年のサイバー攻撃の対応に限らず、常に法令及び社内規定にのっとり、適法かつ適切に対応することに努めている。

 昨年のサイバー攻撃に関しても、当社役員は、事実関係の確認及び関連する情報の収集を可能な限り速やかに行い、社外取締役を含む全取締役とその対応経緯を共有した上で、様々なシナリオを想定して、都度適切に経営判断を行っており、当社としてガバナンスに問題があるとは考えていない。

 また、社外弁護士からも意見書を取得しており、監査法人からも当社から説明を尽くした上で適正意見を取得しているが、その過程でガバナンス上の問題は確認されていない。

 当社では、昨年のサイバー攻撃により被害が拡大した事実を非常に重く受け止めており、再発防止すべく、社外の大手セキュリティ専門企業による助言及びチェックを受けながら、さらなる対策を講じていく。

 加えて、標的型の攻撃メール訓練やコンプライアンステストの中で、情報セキュリティに焦点を当てた役職員への社内教育を実施し、再発防止に努めている。

 

Q サイバー攻撃について、億円単位の身代金報道が出た。これは子会社から出したのか。払って情報漏洩がなければいいかもしれないが、倫理的問題もある。国際社会での倫理もあるので、夏野社長には「うちの会社は今後は一切払わない」と言ってほしい

夏野:サイバー攻撃での身代金については本当にさまざまな意見がある。国際的に見ると、日本は払わないケースが比較的多い方。一方、米国だと8割以上が払うという調査結果もあったりする。これに基づいて、払ったとしても払わなかったとしても大きな非難がある。

 どこから情報が漏れたのか私たちは分からないし、漏れた情報が正しいかも私たちは確認していないので、身代金の支払いに関する事実関係について、当社が何らかのコメントをすること自体が非常に危険であると思っているし、サイバー攻撃を企てるものに対して参考となる情報を提供することになるのは間違いない。ひいては株主共同の利益を著しく害する可能性があることはお分かりいただけると思う。なので、回答は差し控えさせていただく。

 今後、同じようなことがあった時、「絶対に支払いません」、あるいは「絶対に支払います」と私が言うこと自体、ひとつの情報として攻撃者に情報を与えることになるので、回答は差し控えさせていただく。

 

Q 『けものフレンズ』功労者のたつき監督との関係修復状況は。(1)関係修復の意思はない(2)意思はあるが製作委員会内で意思統一されてない(3)KADOKAWAも製作委員会も意思はあるがたつき監督が拒否(4)いずれも意思があり和解協議中、から番号で答えてほしい

夏野:個別のクリエイターとの関係性について説明することはちょっと難しいところがあるので、回答は控えさせていただくが、私たちはすべてのクリエイターのみなさまから満足いただけるよう、きちんと努力を惜しまないことがKADOKAWAとして非常に大事なことだと思っている。

 私たちの誠意を見せて、何とか良い方向に持っていきたいと思っている。(1)~(4)には具体的に答えられないが、そこはご了承いただければ。

Q サイバー攻撃とか下請法勧告とか大きいことがあったが、私がちょっと変に思ってるのは、「何で今回は記者会見しないのか」ということ。東京五輪汚職疑惑の時には即座に記者会見を開いたのに

夏野:前回の五輪事案については、現実に取締役として着任している者の逮捕といった事案で、「取締役会として説明義務があるのは当然だ」と思っている。社内調査を十分に行い、第三者委員会も設立したが、昨今のフジテレビの状況を見ても、記者会見の必要性はお分かりいただけるだろう。

 一方、サイバー攻撃については、取締役会として対策はできるが、原因者が誰だとか、具体的な経緯を開示することは非常に危険なことなので、お分かりいただけると思う。

 過去の他社を見ても、取締役の不祥事についての記者会見は必ず行われているが、サイバー攻撃を受けた企業が記者会見を行ってるケースを私は確認していない。

 私たちとしては、復旧対応は十分尽くしているし、先ほどお話ししたように、警察の捜査も進んでいる中で記者会見の必要性はないと考えた。

 

Q 昨年冬にソニーグループからのTOBの噂が流れ、最終的に資本業務提携で落ち着いた。今後も同様の買収提案などがなされる可能性は否定できない。KADOKAWAのままでいきたいなら、買収防衛策は考えているか。どこかの傘下になる可能性があるなら、どういう会社がいいのか

夏野:この時期、この状況下で、鋭いご質問をいただいたと思っている。

 ソニーとの資本業務提携については、こういう形になって、「この後、ソニーが増資する可能性があるんじゃないか」とよく聞かれる。お互い上場会社なので、今後そういうプランがあったら開示義務がある。今現在、「これ以上の資本を増資する」「資本をソニーから受け入れる」という話はない。

 その前提で質問に答えると、私たちは現時点で敵対的買収防衛策は導入しておらず、導入する予定もない。当社の方針は、業績を安定的に伸ばし、グループの企業価値を高めていくことで、割安でない適切な株価形成を目指すというもの。

 ただ昨今、セブン&アイや日産の問題も含めて、「そういう買収提案があった場合、どうするのか」と株主が質問したい気持ちも分かる。もしそういう提案が具体的にあった場合には、取締役、特に独立取締役を中心に議論していただくことになると思う。

 私自身の考えとしては、「ステークホルダー、具体的には株主、クリエイター、従業員のみなさまにとって納得いくものであれば前向きに検討すべき」と思っているし、そうでなければそういう対応をすべきと思っている。

 「経営陣が経営陣であることを続けるために拒否すること」は絶対にあってはいけないと思っている。まずステークホルダーのみなさんの利益を第一に、適切な判断を下していきたいと考えている。

 

Q 御社は勤務時間中のSNS投稿に問題はあるか。もし問題があるなら、一部役員の処遇はどうなるか

夏野:SNS投稿の種類にもよると思うし、どういう勤務時間なのかにもよると思う。

 当社には色々な職種があり、店舗運営のように時間単位での仕事もあるが、一方で編集者のようなホワイトカラーにはリモートワークを推奨していて、今、出社率はだいたい26パーセントになっている。

 そういった中では勤務時間中であっても、少し余裕ができた時にプライベートなことについてSNSで発信することは、業務上差し支えなければ特に問題はないと考えている。

 また、役員については、内容が会社に関することなのかそうでないかというのは色々あると思うが、勤務時間とかはあまり関係ないので、勤務時間中だからダメということはないと思う。

 いずれにしろ大事なのは、どの時間に何を行ってるかということに限らず、コンプライアンスについて役職員がきちんと思いを致しているか。特に会社の機密に関するようなことをSNSで発信することがあっては絶対にいけないと思っている。そういうことに関しては、コンプライアンス研修を非常に充実してやっていると自負している。

 

Q 生成AIとの付き合い方を聞きたい。コンテンツ制作で生成AIを使って効率化できるという説明もある一方、他者が生成AIを使って御社のIPに害するものを作るといった懸念もあるかと思う。そのあたりの対応をうかがえれば

夏野:コンテンツ制作の現場においての生成AIは、それがそのまま著作物として外に出ていくような形での活用については積極的に行っていない。具体的には、例えば完全作品として世の中に出ていくものを生成AIで作ってマンガとして出していくとかは行っていない。

 ただ、補助ツールとして、例えばスクリーントーンを貼るとか、色塗りをするとか使う可能性についてはあるんじゃないかと思っている。しかし、今現在はそれは作家側の話なので、我々として推奨しているわけではないし、我々が積極的にそこに取り組んでいるということはない。

 一方、社内システムに関しては、生成AIは非常に前向きに取り組んでいる。

 例えば、人事・福利厚生の情報について。いろんな社内規定があるが、例えば、「第一子が生まれることになったが、会社はどうサポートしてくれるか」と、社内の生成AIであるChatGPTに聞くと、手続きとかをばーっと教えてくれる仕組みを構築した。

 あるいはICT部門。「自分のPCをWindowsからMacに変えたい時にどうしたらいいか」というのは、今まで担当者にメールで聞いたりしてたが、これも生成AIが全て答えてくれて、その通りに手続きすればいいとなっている。

 いわゆるDXという領域においての生成AI活用はこれからもさらに推進していきたいが、コンテンツクリエーションの現場における生成AIの活用については慎重に、しかしツールとして使えるものについてはきちんと使っていくべきだと思っている。

 また、我々の著作物が生成AIに学習されることについては、日本雑誌協会や日本新聞協会のみなさんが発出している通り、「十分留意して行われるべきだ」という産業界の意見に我々も賛同している。

 ただ、「実際はネット上にあるものは勝手に学習されてしまうじゃないか」という現実に対して、どのように向かっていくかというのは、私たちの会社だけではなく全産業の課題だと思っている。引き続き、業界団体などを通じて意見の集約を図っていきたい。それに対しては貢献していきたいと思っている。

 

Q(すずき) ニコニコのAIによる機能拡充について。音声認識で自動で字幕を生成したり翻訳するYouTubeのような機能、会見配信の要約をすぐ生成する機能などについてどう考えているか。先日のフジテレビの長時間会見でもリアルタイムに要約を流せれば利便性を上げれたと思う

夏野:私たちのエンジニアの中にはAI専門のエンジニアも配置していて、ボイスチェンジャーなども含めて、AIを使ったアプリケーションに積極的に取り組んでいる。ニコニコのサービスを強化するためには非常に重要な要素だと思っているので、さらに前向きに取り組んでいきたい。

 一方、要約や翻訳に関しては、今のGoogleのやり方も含めて、ユーザーの責任でやってもらう形をとっていることはご存じの通りだと思う。

 例えば、私たちの番組をAIで要約してすぐ出そうとしても、現在のAIの仕組みだと言い回しや語尾などが、ラスト2%、あるいはラスト1%かもしれないが、適切な言葉ではないことがかなりの頻度で起こっている。コミックなどの翻訳でも、AI翻訳にはそういうところがあることは課題としてまだ残っている。

 私もITの専門家として、今現在、AIのサマリーとか、新しいコンテンツを作り出すことにおいては、若干まだ完成度が足りないのかなと思っている。この辺についても十分トラックしながら、ニコニコのサービス強化に努めていきたい。

Q 前年は前会長の角川歴彦氏の代理人の立場で株主総会に出席し、質問した。今年は角川前会長が出席していて、その意向も踏まえた上で、私自身も株主という立場で質問する。

 前年、質問したのは、角川前会長が監査委員会から、東京五輪汚職事件の贈賄疑惑問題についてヒアリングの要請があり、できる限り応じようという意向で実際に応じたが、その一方でガバナンス検証委員会の調査報告書の根幹部分が黒塗りで非開示となっていること。その黒塗り部分以外に角川前会長に何がしかの責任があるという根拠は見当たらない。
 「黒塗り部分を開示しないままヒアリングに応じろというのはアンフェアではないか。開示すべきではないか」と質問したが、「その供述者の社員が開示しないことを条件にヒアリングに応じている」ということで前年は開示していただけなかった。
 しかし株主総会終了後、私の質問の主旨を理解してくださった別の株主が「ガバナンス検証委員会の調査報告書は公開直後に一時的に黒塗り部分が見られるような状態で公開されていた時間が短時間あって、その際にダウンロードして持っているので提供しよう」とおっしゃったので、黒塗り部分の提供を受けられた。
 そこで中身を理解したが、黒塗り部分の根幹部分となっているのはF氏の供述。F氏の「角川前会長が違法だという認識を持った上で、その取引を了解した」という供述が唯一の責任の根拠になっている。
 一方、角川前会長の刑事公判で、F氏は検察側の証人として証言していて、すでに証人尋問も終了している。内容を比較すると、同一人物であることは明白。 ガバナンス検証委員会が角川前会長の責任の根拠としたF氏の供述は、すでに公開の法廷で証言が行われているにも関わらず、今も御社のホームページで公開しているガバナンス検証委員会の調査報告書では黒塗りのまま。
 「角川前会長などを中心とする上席者に忖度する企業文化であった」というところから出発して、今の夏野社長中心のガバナンスが始まってるわけだが、その根幹の部分の根拠がいまだに開示されていない。社員も株主も、どういう証言が根拠になって今のようなガバナンスが始まってるのか全く分からないまま、現体制でKADOKAWAの経営が行われていることになる。
 夏野体制のガバナンスに関わる重要な事実が、刑事ではすでに明らかになっているにもかかわらず未だに公開されないままになっていることについて、夏野社長がどのようにお考えなのか聞きたい

夏野:ガバナンス検証委員会は第三者委員会として設立されているので、私たち経営陣としては全く関与しないところで調査報告書が作られており、調査に基づいて開示も行っている。
 開示の黒塗りに関しても、経営陣とは独立した第三者委員会が判断してやっているので、それを開示する・開示しないについて私たちは判断するものではないと認識している。
 ガバナンス検証委員会があった時の体制から、今は委員会設置会社に完全に移行して、取締役も5人ほど交代していて、かつ社外取締役が過半数を占める会社に変わっている。
 社内取締役である私、山下直久、村川忍、川上量生はたまたま残っているが、そうでない新しい取締役も含めた新しい体制を作っている。継続性は担保した上で、新しい経営体制として新しいことにトライしているのは間違いのない事実。
 今、ご指摘いただいたような黒塗り部分に関して、私が何かコメントを差し上げるべきとは思っていない。ただ、裁判は進行中だと思われ、その裁判の状況は私は存じ上げないが、それはもう司法に任せるという意味でも、ガバナンス検証委員会の調査報告書にそこまでの意味はないと私は解釈している。

 ご質問の趣旨は、私の意見をお聞きになられてるので、私としてはそういう風に解釈していると回答申し上げる。

 

Q ZEN大学でフロム・ソフトウェアの宮崎英高社長を特別講師にするか、特別な授業を持っていただきたい。『DARK SOULS』『ELDEN RING』を作り出した世界的クリエイターなので、どんな制作ビジョンを持っているか今の若い方は気になっていると思うので、ぜひ検討お願いしたい

夏野:本人喜ぶと思うので、本人にも伝えるし、来年から私の授業が始まるので、まずはそこでゲストスピーカーとして呼びたいと思う

 

Q 前年に動画工房を買収したことについては、個人的には『【推しの子】』のヒットが大きかったのかと思う。『【推しの子】』などでKADOKAWAが他社IPのアニメ・音楽制作に関わることが増えていると感じるが、今後そういった他社IPをどこまで増やしていく考えか

夏野:私たちは決して他社作品の比率を増やしているわけではなく、全体の本数を増やす中で他社作品も受けていくことをやっている。

 特に有望なものについては、コンペの形を取ることが多いが、コンペに参加させていただいて実現していく形をとっている。具体的に何割という目標は立てていない。

 自社作品をアニメにすることも大事だし、他社の有力な作品をアニメにすることも非常に大きなビジネス効果があるので、どちらがどの割合と決めることなく、機会があれば、両方ともできるだけ多くの作品をアニメ化していく方向でやっていきたいと望んでいる。