スズキオンライン

なにか役立つことを書きたいです

【議事録質疑応答全文掲載】テレビ東京HDが株主総会概要で省いた質疑があったので、議事録でも省いているか閲覧請求して確認してきた

 キー局の一角を占めるテレビ東京。

 日本経済新聞との結びつきが深く、『ワールドビジネスサテライト』『カンブリア宮殿』『ガイアの夜明け』など経済系の番組に強みを持っているテレビ局です。

 テレビ東京の経済番組では、株主総会シーズンにさまざまな企業の株主総会の様子を報じ、論評しているのですが、その親会社であるテレビ東京ホールディングス(テレビ東京HD)の株主総会はどうなのか。

 僕は今年6月、初めてテレビ東京HDの株主総会に参加したのですが、経済メディアの雄の株主総会としては物足りないものでした。

 株主総会の時間は1時間ほどと一般的な長さでしたが、その多くを事業説明に費やし、質疑応答は20分ほど。受けた質問はわずか6問で、しかも時間を理由に質疑応答を打ち切りました。

 質疑応答の冒頭、議長の小孫茂社長から「質問は1回の挙手につき1問まで(複数の質問がある人は複数回挙手する必要がある)」との説明もありましたが、複数回質問できた人はいませんでした。

株主総会概要に質問全6問中、4問しか記載せず

 個人的に気になったのは、テレビ東京HD公式サイトに掲載した株主総会概要で、省いている質疑があったこと。質問は全6問でしたが、概要には4問分しか書かれていなかったのです。

第9回定時株主総会の概要・質疑応答(テレビ東京HD)

f:id:michsuzuki:20190923105608p:plain

 質問や回答が冗長だった場合、内容を分かりやすくするために要約することはよくありますが、質問ごと省く例はあまり見ません。

 僕が今までに参加した株主総会では、スクウェア・エニックスHDとZOZOが概要をWebに掲載しているのですが、確認できた限りではすべての質疑を掲載しています。

株主総会(スクウェア・エニックス・ホールディングス)

株主総会(ZOZO)

 また、僕は参加していませんが、任天堂の2011年株主総会で東日本大震災に関わるセンシティブな質問があった際、岩田聡社長(当時)が「この質問のこの部分に関してだけは後日ホームページに掲載すると申し上げた質疑応答から割愛させていただこうと思っています」とコメント。

 質疑応答概要で「株主総会に出席された株主様からのご質問とそれに対する回答のうち、主要なものを掲載しております」と断った上で、該当する質疑を削ったこともあったようです。

任天堂株主総会2011年(まこなこ)

2011年6月29日(水)第71期 定時株主総会 質疑応答(任天堂)

 一方、テレビ東京HDの質疑応答概要では、省いた質疑があることを明示していません。

 なお、概要を公開していること自体は評価すべきこと。ほとんどの企業は公開しておらず、キー局でも質疑応答まで公開しているのはテレビ東京HDのみだからです。

 ただ、概要が株主総会の内容を正確に伝えていないのであれば、話は変わってきます。企業にとって都合のいい質疑だけ恣意的に選び、掲載しているなら、問題意識を持ちにくくなる分、公開しない場合よりマズいからです。

 そもそも、テレビ東京は放送法で事実を曲げない報道が求められているテレビ局。経済番組ではレオパレス21やスルガ銀行などの株主総会を取り上げ、さまざまな論評をしている立場なので、他社の模範となるようなIR(投資家向け広報)が望ましいはずです。

議事録でも質疑は省かれているのか

 株主総会後、僕以外にも概要から一部の質疑が省かれていることに問題意識を持った方がいらっしゃったのですが、誤解もあって、「議事録で一部の質疑を省いている」と発言される方が散見されました。

Twitterで「テレ東 株主総会 議事録」で検索した結果

 会社法で作成が義務付けられている株主総会議事録は、株主総会概要とは別のもの。ほとんどの企業では一般に公開しておらず、テレビ東京HDも公開していません。

 デマになるので否定しようかと思ったのですが、問題は本当に株主総会議事録でも質疑が省かれている可能性があること。もしそうなら、否定すると逆に僕がデマをばらまくことになります。

 ならば、直接確認しようと、テレビ東京HDに株主総会議事録の閲覧請求をすることにしました。

 ちなみに、法律的には「株主総会の議事の経過」に該当しない質問は議事録に記載する必要はありません。ただ、議事録は株主総会の成立が争われる裁判などの資料にもなるので、できるだけ記載することが望ましくはあります。

株主総会議事録に株主からの質問はどれだけ記載するべきか(BUSINESS LAWYERS)

 株主総会議事録がどういうものか実際に見たい方は、東証JASDAQに上場するエーワン精密がWeb上に公開しているのでご覧いただければ。企業によって多少フォーマットは異なりますが、質疑だけでなく意見も掲載していることが分かるでしょう。

第15期定時株主総会議事録(エーワン精密)

議事録閲覧のためにやるべきことは

 株主総会の議事録を閲覧するためには、いくつかの手順を踏む必要があります。

(1)当該企業の株式を保有する

(2)株式を保有していると当該企業に認識してもらうため、証券会社を通じて証券保管振替機関に連絡し、当該企業に個別株主通知を送ってもらう

(3)当該企業のIR・総務部に連絡して閲覧請求書を送ってもらう

(4)閲覧請求書を送り、問題なければ閲覧の日程を調整

(5)当該企業を訪問し、株主総会議事録を閲覧

 「(1)当該企業株式の保有」は証券口座と買付余力があれば、すぐに実行できます。

 僕はテレビ東京HD株主総会の1週間半後、7月5日に最低単元の100株を購入。利益を得る目的ではないことを明確にするため、念のため、同株数空売りし、株価が上下したとしても、影響を受けないようにしました。

 取引手数料や信用金利があるため、僕はこの手続きで損しかしません。

f:id:michsuzuki:20190923151903p:plain

 株主総会議事録の作成には時間がかかる場合もあるので、「(2)個別株主通知」以降の手続きは株主総会から1カ月以上経った8月になってから進めることに。

 8月中ごろ、SBI証券のカスタマーサポートに電話して、個別株主通知を送ってもらうための、申出書を郵送してもらいました。

 個別株主通知の手続料は、税込3240円と飲み会1回分のお値段。データのやり取りだけにしては高い気がします。ちなみに、“物言う個人投資家”の支援を表明したマネックス証券は1500円+税とやや安く、僕が見た中で最安は松井証券の1000円+税でした(クリック証券は0円らしいです)。

f:id:michsuzuki:20190917220238j:plain

 なお、書類を郵送するための封筒には「料金受取人払郵便」と書いていて、僕が郵便料金を支払う必要はありませんでした。

f:id:michsuzuki:20190819184256j:plain

 個別株主通知申出書の書式自体はめっちゃシンプル。

f:id:michsuzuki:20190917220241j:plain

 うっかりSBI証券への届出印と違う印鑑を押してしまったことから、一度やり直しになったのですが、正しい印鑑を押して送ってから数日後、個別株主通知済通知書が届きました。

 なお、個別株主通知には期限があり、通知日から4週間以内に権利行使する必要があります。今回のケースでは9月2日付で通知しているので、9月30日までに権利行使しなければなりません。

f:id:michsuzuki:20190917220858j:plain

 次は「(3)IR・総務部に連絡し、閲覧請求書を取り寄せ」で、いよいよテレビ東京HDに電話することに。

 決算短信記載の番号に電話して株主総会議事録閲覧の希望を伝えると、総務部の担当さんに回され、閲覧(謄写)請求書を送ってもらうことに。

 数日後に届いたのですが、肩書が「株主」になっている書類は初めて見ましたね・・・。

f:id:michsuzuki:20190917221143j:plain

 閲覧(謄写)請求書の形式もシンプル

f:id:michsuzuki:20190917221318j:plain

 請求書類は「株式会社テレビ東京ホールディングス第7~9回定時株主総会議事録」と記入。今年の第9回定時株主総会の議事録だけではなく、Web上に質疑応答概要が掲載されていて比較できる過去3年分の議事録を請求しました。

 請求の目的は2点挙げました。

(A)株主総会概要(WEB)で省いている質疑があることから、すべての質疑を確認するため

(B)「都合の悪い質疑を省いている」と多くの批判があり、コーポレートガバナンスに疑義を持たれていることから、議事録を確認、および株主共同の利益のため、公開して事実を明らかにするため

 閲覧(謄写)請求書に「閲覧等に当たりましては、貴社の指示に従い、また、これにより、知り得た内容を下記の目的以外には一切使用しないことを約束いたします」との文言があったので、ブログで公開することが前提の閲覧請求ということで、(B)を書くことで筋を通しています。

 なぜ理由を2つ挙げたかというと、(B)の目的が通らなかった時、(A)の目的だけでも通るようにするため。

 議事録の閲覧請求に対して、企業は正当な目的ではないと判断した場合、拒否できるのです(ただし、企業は正当な目的ではないと立証する必要がある)。(A)は突っ込みづらい目的で拒否することは困難ですが、(B)は議論の余地があると想像したのです。

 「閲覧(謄写)請求書はまずFAXで送ってほしい」と担当さんから言われていたので、FAXを送るとすぐに電話がかかってきました。出先で取れなかったのですが、その後、メールが届きます。

 もしダメと言われたら交渉しようと、いろいろ用意していたのですが、問題なくOKとの返信。テレビ東京HDはこういうところで争う企業ではないんだと、ちょっと意外でした。

六本木のテレビ東京HD本社へ

 というわけで、約束した日時に六本木グランドタワーにあるテレビ東京HD本社を訪問。かつて本社は虎ノ門にあったのですが、2016年秋に六本木に移転しています。

f:id:michsuzuki:20190913133133j:plain

 入り口ではマスコットキャラクターのナナナが出迎えてくれます。

f:id:michsuzuki:20190913135145j:plain

 受付で担当者の名前とアポの旨を伝えると、やり取りしていた担当さんに加え、社員さんがもう一人現れました。株主対応にあたってはトラブルから訴訟沙汰になることもあるため、これは当たり前の対応です。

 ゲストパスをもらい、入場ゲートをくぐった先の打ち合わせスペースで株主総会議事録を閲覧することに。閲覧前に本人確認として身分証明書の提示も求められました。

 議事録の内容は書いても問題ないのですが、原本のコピーはNGと言われたので、PCで議事録の質疑応答部分を書き写したのが↓。一部、漢数字をアラビア数字に変換したり、全角半角を調整したことを除けば原文ママ。WEB掲載の概要を黒字、議事録を赤字で並べて、比較しています。
 入場票番号や動議提出者の名前は「書いても問題ない」と言われましたが、プライバシーにかかわるため僕の判断で伏せています。

 ちなみに僕の質問は、3つめの一次情報のリンクについてのもの。僕は「僕が質問したと分かっても別にいい」と思っていますが、他の質問者は個人情報が漏れてしまう懸念があると、株主総会で自由に質問しにくくなる可能性があると考えているため、プライバシーを尊重しています。

Q1.アニメ「けものフレンズ」の監督が二次利用の印税を受け取っていないと主張しているが︖

脚本料や二次利用の印税は契約書にのっとってすべて支払っている。

(質問:入場票番号××)
・「けものフレンズ」の監督が脚本印税をもらっていないと主張している。脚本料や二次使用脚本印税を支払わないのは下請法違反ではないか。また「けものフレンズ2」では製作途中で降板を宣告されたと言っている。これは独占禁止法、下請法に違反していないか
(回答:田村専務)
・脚本印税、二次利用等については契約書に則ってすべて支払っている。監督交代は製作委員会の総意で決定したものである。

 

Q2.報道について、特定の圧力などを受けて偏った報道をしていないか︖

特定の団体や圧力に忖度せず、社会に必要とされると判断したものを放送している。報道機関として様々な社会現象・経済政策を色々な角度から幅広く報道し、視聴者の皆様に考えていただける材料を提供している。放送法に基づき政治的中立を守っている。

(質問:入場票番号××)
・報道姿勢に関して特に「報道しない自由」について質問したい。いわゆる「関西生コン」事件についてどのテレビ局も報道していないのはなぜか。野党や在日団体とつながりが言われているが圧力があるのではないか。東京五輪ではIOCから批判されるような取材はやめてほしい。
(回答:石川専務)
・特定の政治勢力や団体からの圧力や忖度で報道しないということはない。常に社会に必要とされると判断した問題について報道している

 

(概要に記載なし)

(質問:入場票番号××)
・テレビ東京のWEBニュースを見ると、一次情報のリンクを張っていないが見解を伺いたい。
(回答:石川専務)
・記事の情報源として一次情報を使用することもあるが、色々な場面があるのでリンクをしてないこともある。

 

Q3.放送法改正に関連して、NHKの同時配信は⺠業圧迫なのではないか︖

NHKの肥大化は脅威だが、⺠放として引き続き努力し、視聴者の皆様からのご支持をいただいた上で⺠放の存在を理解していただく。NHKに関する議論についてはいろいろな場で話されるべきだと思う。

(質問:入場票番号××)
・放送法改正によるNHKの同時配信について、NHKは脅威、民業圧迫だと思う。特にネットワークの少ないテレビ東京には脅威だと思う。NHKが視聴料制度に移行するような世論形成をなぜしないのか。また放送局に関係してトラブルが続いているので監査役は監視をしてほしい。
(回答:小孫議長)
・テレビ東京にとってNHKの肥大化は脅威である。ただし、NHKを倒すような行動はできない。視聴者からの支持がなければ、民放・NHKともに自分の利益のために我を通すようなことはできないと考える。民放としては視聴者の皆様の支持を得られるように努力するなかで、NHKの議論を広げていくことが近道たと考える。民放が企業努力を続けて支持者を広げることが大事で、NHK・関係者の理解を得ることを目指す。

 

(概要に記載なし)

(質問:入場票番号××)
・経済番組で財務省主導の緊縮財政を支持する論調が多く感じる。財政出動を主張する報道が少ない。
(回答:石川専務)
・報道機関として様々な社会現象・経済政策を多様な角度から幅広く報道し、視聴者の皆様に考えていただける材料を提供している。放送法に基づいて政治的中立を守っている。

 

Q4.2018年度決算では先行投資で利益が伸びなかったが、先行投資とは具体的に何か︖

例えば新本社移転やBS4K開始に関わるスタジオ・新しい技術などの設備投資、競争が激化しているアニメの競争力強化のために投資した。

(質問:入場票番号××)
・先行投資によって当期の収益が伸びなかったとのことだが、先行投資の具体的な内容、金額について説明してほしい。2019年4月以降の業績について、この先行投資がとれだけ影響するのか教えてほしい。数年前の株主総会でテロップ間違いが多いことを指摘した。改善していると思うが、現場のやる気を損なわないようにさらに改善に努めてほしい。
(回答:小孫議長)
・テロップ間違いについては同感であり、大分減ったと思うがゼロを目指していきたい。先行投資については、新本社への移転に伴い導入した新技術の減価償却がある。BSテレビ東京がBS4K放送を開始したことによる設備投資に伴う減価償却も増えている。この2点は放送業界の競争の中でやらなくてはならない投資であり、2019年度、2020年度も償却負担が発生するが、将来の競争力強化につながる投資てある。このほか、国内海外ともに激しい競争をしているアニメ業界では、将来のヒットを見据えて仕込み投資をしなければならない。アニメの人気がでて、投資を回収できるのは将来の話だが、収益化の種をまいているところである。

 

<修正動議の提出>
 入場票番号××の××株主より、第1号議案「余剰金処分の件」に対して、1株につき金1円の増配を求める修正動議が提出された。また、同株主より第2号議案「取締役13名選任の件」に対して、取締役候補者のうち新見傑氏と岡田直敏氏を除外し、他の者を取締役として選任する修正動議が提出された。
 これについて議長は、当該修正動議は原案と一括して審議した後に原案とともに採決する旨を議場に諮ったところ、議場の過半数の賛成を得た。

 こうして見ると、概要では4問分しか記載していませんでしたが、議事録では6問すべてについて記載していることが分かります。

 また、概要では2つ目と5つ目の質疑を混ぜて記載していますね。同じような質問があった時、まとめてひとつの質問として記載することは議事録の場合でも許されていますが、概要で「Q1~Q4」と番号を振って、その順に全4問が質問されたかのような見せ方になっているのはちょっと微妙。

 2つ目の「報道しない自由」の質問で、概要では「関西生コン事件について削除している」との批判もありましたが、議事録では記載していました。

 もちろん多くの人の目に入るのは議事録ではなく概要なので、概要が雑なのは望ましくないですが、株主総会のレギュレーションは守っている感じです。

テレビ東京HD「概要はあくまで速報版」

 せっかくなので、担当さんにいろいろ聞いてみました。

――株主総会概要の位置付けは?

担当:株主総会終了から2時間くらいを目安に載せようと、広報部隊が作っている。毎年4~5問を取り上げていて、取捨選択に意図はない。あくまで概要なので。2017年、2018年の株主総会の概要でも省いている質疑がある

――2問目の関西生コン事件の件で、概要では名前を出さなかったことについて

担当:その名前を書くことが株主のみなさんにお伝えする上で大事ではないため。この方にとっては大事だったかもしれないが、株主全体にとっては重要度が落ち、お伝えしなければならないことではない

――5問目の財政出動についての質疑を概要で省いたのは

担当:概要は急いで作っているので、その時々の判断。議事録ではちゃんと書くようにしている。整合性がないといけないということになると、概要をすぐには出せない。速報版として「こういうことがあった」とお伝えしないといけない。エッセンスを抽出しないといけない

――概要について、さまざまな批判がある。省いている質疑があると注釈をつけたりしないのか

担当:来年以降、事務局でも意見を踏まえて考えていきたい。今年は『けものフレンズ』の関係で批判が多くなっているのでは。ずっと問題点として内在していたものではないと思っている(筆者注:ここだけ抜き出してコメントする人いそうだ)

――そもそも株主総会の質疑を20分ほどと短い時間で打ち切っていた

担当:議長がそういう采配をしたため。議長の判断。

f:id:michsuzuki:20190913135041j:plain

 概要をどこまで詳しく書くべきかについては正直、悩ましいところもあります。

 例えば、東京電力の株主総会で「隣の山田さんの子どもが夜遅くまでゲームをやっていてうるさい。東京電力はなぜ山田家の電気を止めないのか」みたいな私的な質問(?)があったら、どう扱うか意見は分かれるでしょう。

 名のある企業の株主総会概要に載せてアピールしようと、企業と関係の薄い主張をしたい人も来てしまうかもしれません。「関西生コン事件のところが森友問題や政教分離だったとしても、同じように扱うべきか」と問われたら、違うように思う人もいるのでは。7月の参院選直前の株主総会というのも難しいところ。

f:id:michsuzuki:20190625084050j:plain

元エース記者の小孫茂社長

 個人的には概要より、議長の小孫茂社長が質疑応答を早々に打ち切ったことに一番がっかりしました。

 小孫社長は日本経済新聞出身で、若いころは日銀クラブキャップやワシントン支局長も務めたエース記者でした。記者会見では徹底した質疑を要求する側だったはずなのに、逆の立場になったらこうするのかと。

 読売新聞出身で日本テレビHD社長の大久保好男さんは、1人1問の縛りはあったものの、手を挙げる人がいなくなるまで質問を受けていましたよ。

 メディア企業では報道方針などに反発して株主総会で訴える人がいがちですが、先鋭的すぎる主張もあるので、非がないなら丁寧に説明すればサイレントマジョリティは受け入れるでしょうし、非があるなら改善すればいいだけ。改善に動いているのに、同じように批判し続ける人がいるなら、逆に批判する側の正当性が問われますし。

 株主総会をシャンシャン総会で終わらそうとするのは、テレビ東京HDの株式を32.01%保有する日本経済新聞社でも同じ。

 大塚将司著『日経新聞の黒い霧』によると、非上場で社員とOBのみが株式を持つ日本経済新聞社では「現場の記者は総会に出席させないというのが会社の方針」「出席するのは会社側が指名した部長クラス以上の幹部と関係会社の役員、それに組合幹部だけ」「当然、質問も出ないシャンシャン総会になり、30分くらいで終わってしまう」。株主総会後の株主懇談会では「組合の委員長が10項目くらいの質問をし、それに社長が答える。質問は事前に会社側に渡されていて、回答も事前に準備されている」という。

 2003~2004年ごろに鶴田卓彦・日本経済新聞社社長(当時)の疑惑を社内から追及した大塚さんは、「総会にチェック機能がまったくなかったわけで、それが鶴田卓彦社長の独善を可能にしてきた」と指摘。

 これは当時の話で今は変わっているかもしれませんし、非上場企業では似たような株主総会も多そうですが、テレビ東京HDの株主総会がこうなっている遠因にもなっているかもしれません。

 小孫社長は元エース記者ですし、担当さんにこのブログで書くとも伝えたので、こんな場末の記事もうっかり読んでしまうと思うのですが、「どんな気持ちで社会に出たのか」を思い出してほしいですね。全然関係ないですが、僕は遊佐未森さんの『夏草の線路』という曲が世界で一番好きなので、ついでに聴いてみてください。

 他会社でも同様に気になる発言があった株主総会があれば、この記事が参考になればという意味でも書いてみました。手続き自体はわりと簡単です。