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『天気の子』興収100億円突破! お盆に二段ブーストをかけた宣伝展開を徹底分析した

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 8月21日に興行収入100億円を突破した新海誠監督『天気の子』。

 7月19日の公開日から33日間での100億円達成は、28日目で達成した『君の名は。』よりは遅いものの、かなり早いペース。そもそも邦画アニメで興収100億円を超えた監督は、新海さん以外には宮崎駿さんしかいません。

 興行収入が250億円を超えた『君の名は。』の新海監督の最新作ということで、『天気の子』は大規模な宣伝展開となることが予想されていました。

 そこで、僕はどんな宣伝が行われるか随時ブログで追いかけていたのですが、いろいろと練った展開をしていることが分かりました。

 特にお盆に二段ブーストをかけているところが面白いと思ったので、100億円突破を機にこれまでの『天気の子』の宣伝展開をまとめてみることにしました。ややネタバレが含まれるので、映画未見の方はご注意を。

【随時更新】新海誠監督『天気の子』の制作・プロモーションの時系列をまとめていきます

公開前の宣伝はセオリー通り

 7月19日の公開前の宣伝スケジュールはよくある夏の大作アニメと同じ。数回の予告編と、監督の過去作品のテレビ放送。その間に、出演者発表やカットシーン紹介がはさまります。

 予告編は公開前、(予報1)4月10日、(予報2)5月29日、(スペシャル予報)7月2日の計3バージョンを出しています。

 ちなみに『君の名は。』の予告が初めて映画館で流れたのは2016年4月16日公開の『名探偵コナン 純黒の悪夢』でのことで、『天気の子』の予告が初めて映画館で流れたのは2019年4月12日公開の『名探偵コナン 紺青の拳』でのこと。大作映画の予告は大作映画で解禁というのは、セオリーになりつつありますね。

 夏アニメは普通、公開前年12月の制作発表記者会見で最初の予告編をお披露目するもの。しかし、『天気の子』は公開3カ月前の予報1が初披露。

 昨今の流行の移り変わりの早さから、「意図的に宣伝展開を遅らせたのでは」と考えていたのですが、インタビューを読むと、『君の名は。』がロングヒットしたこともあり、単純に制作が遅れていたからのようです。そのため、試写会もありませんでした。

 過去作のテレビ放送は、スタジオジブリや細田守監督御用達の日本テレビ・金曜ロードショーではなく、新海監督と歴史的につながりの深いテレビ朝日が担当。

日時 テレビ局 作品
6月21日 テレビ朝日 秒速5センチメートル
6月22日 テレビ朝日 星を追う子ども
6月30日 テレビ朝日 君の名は。
7月10日 テレビ朝日 言の葉の庭

 こちらも普通は映画公開直前に一番人気のある作品を放送するものですが、大ヒットした『君の名は。』を放送したのは公開2週間以上前の6月30日。

 これは恐らく参院選対策で決まった日程でしょう。

 金曜ロードショー枠がある日本テレビと違い、テレビ朝日は日曜しか特別編成できない事情があったと推察されます。参院選の投開票日は日曜なので、うっかり重なると当然、選挙番組に差し替えなければなりません。

 参院選は7月のどこかで行われることまでは分かっていたので、公開日にできるだけ近く、選挙とかぶらないギリギリの日程として6月末を選んだのだと思います。

 『君の名は。』のテレビ放送は理想的な日程は選べなかったものの、『天気の子』コラボCMなどが話題を集めます。「入れ替わってる!?」の名ゼリフ(?)に合わせて、各社のロゴが入れ替わるネタをするためには、裏でかなりの調整があったとか。

 珍しいところでは、TikTokでの宣伝もやっています。

 TikTokのサービス開始は2016年9月なので、『君の名は。』公開時にはなかったWebサービス

 ちなみに、どの宣伝が映画告知に効果があったかは、新海誠監督天気の子公式のTwitterフォロワーの増え方で推測できます。

 古いデータはとれないのですが、直近1カ月だと↓のような感じ。

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 映画公開後は新海監督は週7000人ほど、天気の子公式は週1万人前後、フォロワーを増やしていることが分かります。

 公開前はこんなに動いていなくて、通常は新海監督は週1000人増、天気の子公式は週500人増。予告編を出した週は新海監督は3000人増、天気の子公式は1万人増。『君の名は。』テレビ放送の週は新海監督も天気の子公式も1万人増ほどでした。

 

 公開直前、新海監督はツイートをきっかけにフォロワーが約2万人増えたことが2回ありました。

 1回目は映画完成時のツイート。これは宣伝担当の人にとっても、意外だったのでは。同人作家の人でもコミケ前とかに真似できそうですね。

 2回目は大変痛ましい結果となった京都アニメーション放火事件に触れたツイート。公開前日に起こった事件で、新海監督は当然、宣伝につなげる意図はなかったでしょうが、大変悩んだと思います。

 同じアニメの仕事をする人間としてとても悲しい、とはいえ事件の混乱の最中ではあるが全力で作った自作の宣伝をしないといけない、事件についてコメントすると宣伝につなげていると誤解されるかもしれないがコメントしないのもおかしい・・・いろんな思いが入り交じったのでは。

 お盆にも宣伝の山を設定

 映画公開日の0時には、RADWIMPSによる主題歌『愛にできることはまだあるかい』をYouTubeにアップし、Twitterのトレンドにもなりました。

 公開時の展開は、前日の小説販売、全劇場の初日一斉上映&エヴァ特報サプライズ、JR新宿駅ジャック、ローソンコラボなどなど

 いろいろあったのですが、本題のお盆に向けた宣伝に焦点をあてていきます。

 

 ヒマになって娯楽を求める人が増えるお盆は、映画興行にとって大事な時期。

 お盆需要を狙って公開する作品も多く、ライバルとして『ライオン・キング』『ONE PIECE STAMPEDE』(ともに8月9日公開)などが立ちはだかりました。

 ここに『天気の子』は宣伝の山を作ってきたのです。個別に紹介しましょう。

(1)後報

 まず、異例なことに映画公開後にもかかわらず、新たな予告編を出したのです。公開2週間後の8月4日、“後報”と題した予告編です。

 映画を見た人だと分かるのですが、クライマックスのシーンを惜しげもなく使っています。音楽の『大丈夫』は映画のエンディングで流れる曲。

 完全にネタバレな内容ではあるのですが、これは新規のお客さんを取り込もうというより、「あの感動をもう一度」と思わせてリピーターを増やす戦略。

 『天気の子』は情報量が多い映画で、少し見逃したシーンがあるだけで、ストーリーを追いきれなくなることがあります。2度目以降の鑑賞ではそういうことがなくなり、満足度が上がる傾向にあるので、宣伝チームとしてもリピート訴求に力を入れたのでしょう。

(2)日本テレビの金曜ロードショーと連動

 『君の名は。』を放送したテレビ朝日と新海監督のつながりが深いことに触れましたが、実は日本テレビも新海監督にかなりアプローチしていて、宣伝展開に協力しています。

 公開日朝の『スッキリ』では新海監督が生出演して加藤浩次さんと対談、『news zero』では有働由美子キャスターが映画制作現場に1年間密着、お盆放送の『世界一受けたい授業』では新海監督が先生として登場しました。

 『世界一受けたい授業』では『君の名は。』の感情グラフを解説していたのですが、実は新海監督、過去のツイートで『天気の子』の感情グラフもチラ見せしてたりします(最終版ではないかも)。

 夏休みはアニメ映画の放送が多くなる金曜ロードショー。

 新海作品の放送こそないものの、『天気の子』連動と思われるシーンがありました。

日時 テレビ局 作品
7月12日 日本テレビ 未来のミライ(細田守監督)
7月19日 日本テレビ サマーウォーズ(細田守監督)
8月16日 日本テレビ 千と千尋の神隠し(宮崎駿監督)
8月23日 日本テレビ 崖の上のポニョ(宮崎駿監督)
8月30日 日本テレビ 天空の城ラピュタ(宮崎駿監督)
9月6日 日本テレビ 名探偵コナン 天空の難破船(山本泰一郎監督)

 それはお盆の最中、8月16日の『千と千尋の神隠し』放送でのこと。

 『天気の子』の後報に続けて、新海監督が制作した大成建設のCMを流したのです。大成建設は普段、金曜ロードショーのスポンサーに入ることはないので、『天気の子』宣伝のために特別に依頼したのでしょう。

 『千と千尋の神隠し』で『天気の子』後報が流れることにも意味があります。

 後報で使っている帆高と陽菜が空から落ちるシーンは、『千と千尋の神隠し』でハクと千尋が空から落ちるシーンのオマージュなんですよね。

 後報は『千と千尋の神隠し』の中盤で流れていたので、終盤でハクと千尋が空から落ちるシーンを見た人はアッと思ったのではないでしょうか。

 『千と千尋の神隠し』で流すことを想定して後報を作ったのか、そもそも金曜ロードショーでお盆に『千と千尋の神隠し』を流すこと自体から宣伝チームが動いていたのか、聞いてみたいところ。

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 よく考えると、8月23日放送『崖の上のポニョ』は『天気の子』と水つながり。

 さらに8月30日放送『天空の城ラピュタ』のシータの飛行石と、『天気の子』の陽菜のチョーカーもどことなくつながりを感じます。これ完全に狙った編成ですね・・・。

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(3)RADWIMPSが『ミュージックステーション』で主題歌をテレビ初披露

 もちろんテレビ朝日もお盆の宣伝に協力。

 8月9日の『ミュージックステーション』で、RADWIMPSが『天気の子』主題歌の『グランドエスケープ(Movie edit)feat. 三浦透子』『愛にできることはまだあるかい』をテレビ初披露

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 こういうことは普通、映画公開直後にするもの。あえて公開3週間後まで遅らせて出演したことに、お盆への注力を感じました。

 なお、日本テレビが製作委員会に入ることが多いスタジオジブリ作品や細田守監督作品と違い、『君の名は。』『天気の子』は製作委員会にテレビ局の名前がありません。

 テレビ局が入らないことにはメリットデメリットがありますが、メディアが増えた現代においては入れないメリットの方が大きくなっているように思います。

 いろんなテレビ局が絡みやすくなるだけでなく、AbemaTVやAmazon Prime Videoといったネット媒体でも、新海誠監督の過去作を流しやすくなりますからね。

『君の名は。』製作委員会東宝(配給)、コミックス・ウェーブ・フィルム(新海誠監督所属)、KADOKAWA(『小説 君の名は。』出版)、 ジェイアール東日本企画(交通広告)、アミューズ(神木隆之介さん所属)、voque ting(RADWIMPS所属事務所)、ローソンHMVエンタテイメント(タイアップ商品)

『天気の子』製作委員会東宝(配給)、コミックス・ウェーブ・フィルム(新海誠監督所属)、STORY(東宝関連会社、企画・宣伝担当の古澤佳寛氏や川村元気氏が所属)、KADOKAWA(『小説 天気の子』出版)、ジェイアール東日本企画(交通広告)、voque ting(RADWIMPS所属事務所)、ローソンエンタテインメント(タイアップ商品)

(4)お盆に作中のイベントが集中

 『天気の子』の舞台は夏の東京ということもあり、作中のイベントがお盆前後に実際に開催されます。

 その最大のものがお盆(今年は8月10日)に行われる神宮外苑花火大会。浴衣に着替えた陽菜が六本木ヒルズ展望台で祈り、晴れにしたイベントですね。作品で扱うイベントを選ぶ時点で、開催時期に口コミが起こることを想定していたのではと思ったりします。

 個人的には「三井ビルのど自慢」をちょい出しでもしていたら、もう少し口コミが生じたのではないかなーという気もしますが。

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 お盆といえばこのイベントというコミケも。作中では初代プリキュアのコスプレをする2人組が登場します。

 そしてコミケが開催されるビッグサイトと青海展示場の最寄り駅、コスプレイヤーが集う防災公園には、『天気の子』ラッピングの自動販売機が置かれました。

 自動販売機には作中のシーンを使っていて、しかも置いた場所によって絵柄が違います。青海展示場はこの夏コミが初使用なのですが、抜け目ないですね。

各エリアで装飾の違いも、『天気の子』とサントリーのコラボ自販機を全台探してみた

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 コラボ自販機はお台場だけではなく、神宮外苑や新宿、池袋にも置かれています。

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 また、陽菜が晴れ女の力を手に入れた鳥居が屋上にある(設定の)代々木会館。

 8月から取り壊しが始まって、ニュースでも取り上げられました。ここで話題になることも狙って、舞台に選んでいたら慧眼すぎると思うのですが、どうなんでしょう。

「天気の子」聖地・代々木会館の解体始まる 「傷だらけの天使」にも登場(J-CASTニュース)

 なお『天気の子』特集のある『ムー 9月号』もお盆時期の8月9日に発売。

 『ムー』は月刊誌なので、ここしかないタイミングではありますが

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(5)全国で舞台挨拶

 これはお盆期間に限らないですが、新海監督が全国を回って舞台挨拶をしています。

 公開直後にたくさん舞台挨拶している東京を含めると、すでに18都道府県を制覇。往年のスタジオジブリ作品並みの全国行脚です。

 舞台挨拶の半分以上で、主役2人の声をあてた醍醐虎汰朗さんと森七菜さんも登壇。これはスケジュールの都合がつきやすい、これからの俳優を起用したことがプラスに出ていますね。もし橋本環奈さんだったら、こんなにスケジュールを押さえるのは難しかったでしょう。

日時 場所 登壇者
7月30日 札幌 新海誠監督、醍醐虎汰朗、森七菜
7月31日 宮城 新海誠監督、醍醐虎汰朗、森七菜
8月2日 長野 新海誠監督
8月5~6日 愛知・岐阜 新海誠監督、醍醐虎汰朗、森七菜
8月7日 静岡 新海誠監督、醍醐虎汰朗、森七菜
8月9~10日 新潟 新海誠監督
8月20日 大阪 新海誠監督、醍醐虎汰朗、森七菜
8月21日 岡山 新海誠監督、醍醐虎汰朗、森七菜
8月23~24日 福井・石川・富山 新海誠監督
8月26~27日 愛媛・広島 新海誠監督
8月30日~9月1日 大分・福岡・熊本 新海誠監督、醍醐虎汰朗、森七菜
     

 全国舞台挨拶のメリットは、当日の観客動員につながるということだけでなく、地元メディアの取材も受けられることにもあります。

 新海監督は現地のテレビや新聞の取材をかなり積極的に受けているので、ローカルで結構影響が出ていそうです。

さらに隠し玉も?

 興行通信社のデータをもとに、『天気の子』の興行成績推移をまとめたのが次の表。

 『天気の子』はお盆に宣伝の山を作った甲斐があってか、それほどスローダウンすることなく乗り切っています。映画の場合、だいたい前週比2割減くらいの興行収入推移になるものなので(お盆の需要増の恩恵もありますが)。

日時 該当期間興行収入 累計興行収入 週末興行順位(1位作品)
7月19~21日 16.4億円 16.4億円 1位
7月22~28日 22.6億円 39億円 1位
7月29日~8月4日 21億円 60億円 1位
8月5~11日 18億円 78億円 3位(劇場版 ONE PIECE STAMPEDE)
8月12~18日 18億円 96億円 2位(ライオン・キング)
8月19~21日 4億円 100億円

 Googleトレンドで『天気の子』より一週公開時期が早い『トイ・ストーリー4』と比較して見ると、『天気の子』は人気度を高いレベルで保ちつつ、お盆で盛り返してもいるのが分かりますね(トイ・ストーリーもお盆で盛り返していますが)。

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 『天気の子』は東宝としても力を入れている作品なので、宣伝スケジュールがかなり長めにとられています。全国舞台挨拶はまだあるでしょうし、秋には劇場パンフレット第2弾も予定されています。

 そして、『天気の子』には隠し玉があります。

 『天気の子』には『君の名は。』の瀧や三葉たちも出演しているのですが、宣伝展開でまだ『君の名は。』のキャラを出していないのです。興収250億円作品のキャラなので、宣伝要素としてかなり強いはずなのに。

 僕の読みが正しければ、8月26日の『君の名は。』公開3周年に合わせて、『君の名は。』キャラのチラ見せが含まれる『天気の子』予告編“残暑見舞い版”を出すのではないかと。夏休み明けに向けて、学生に訴求するなら、タイミング的にも良さそう。

 

 今後は海外公開も続々と行われます。各地で動員数1位をとれば、そのニュースが宣伝にもつながるでしょう。

 ただ、気になるのは現在発表されている海外公開スケジュールに中国がないこと。

 『君の名は。』の中国での興行収入は95億円と日本以外では最大で、今作もそれなりにヒットすることが予想されます。

 5月の東宝の株主総会で、中国での『天気の子』の展開については、「すでに中国の大手配給会社と契約している」と担当取締役がコメントしています。

依頼が増えているため、上映前の予告編の時間が最近は長めになっている――東宝 2019年株主総会の内容まとめ

 中国の人からいただいたコメントによると、少なくとも公開は9月以降だろうという話。しかし、海外公開の日程は11月のタイまで発表されているので、リストに中国の名前がないのには違和感があります。

 個人的には、中国政府の検閲に引っかかっている可能性があると想像しています。『天気の子』は反社会的行動がありまくるので、そこがネックになっているのではないかと。今、中国政府は香港の反政府運動でピリピリしていますし、主人公が警察署から脱走する映画とか厳しいんじゃないですかね。

 

 『天気の子』の快進撃はまだ続きそうなので、僕もしばらくは宣伝展開を楽しみながら追っていこうと思います。

 『天気の子』の場合、映画制作陣が超一流なだけでなく、宣伝チームも超一流なんですよね。そういう意味で、めちゃめちゃ勉強にもなっています。

 より詳しく宣伝展開を知りたい方は、こちらの記事↓を見ていただければ。かなり読みにくくはなっていますが(笑)

【随時更新】新海誠監督『天気の子』の制作・プロモーションの時系列をまとめていきます